サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『銀河爆風ゲキシンガー』 原作・山崎優/小説・小林一俊
第2話 本日開業、オフィスJack-9
登場人物

・クロウ・ザ・ライトニング/27歳
:本名はクロウ・G・オクスフォード。長身痩躯の二枚目半で、古流剣術の達人。ゲキシンガーでは指揮及び火器管制を担当する。

・流れ星のベン/27歳
:クロウの幼馴染みで、本名はベンジャミン・ケイン。中肉中背だががっしりとしており、抜群のドライビングセンスを誇る。ゲキシンガー及びゲキシン・クルーザーの操縦を担当する。

・壊し屋セイラ/29歳
:本名、セイラ・ホワイト。眼鏡のよく似合うショートカットのトランジスタグラマーな美女。ゲキシンガーでは通信及び索敵を担当する。

・トロワ・イゼル/33歳
:クロウに影の護り人になることを持ちかけ、巨大ロボ・ゲキシンガーを提供した謎の人物。ゲキシンガー搭乗時は情報処理デスクに就く。

・リック・ボースン/29歳
:鳥の巣のようなもじゃもじゃ頭に、長身痩軀がトレードマークの青年。腕のいいメカニックであると同時に、二挺拳銃の達人でもある。ゲキシンガーでは機関士を担当する。

・ラビ・クーガ/ノール・クーガ/18歳
:双子の姉妹だが、二卵性双生児なので外見はあまり似ていない。姉のラビは背の半ばまで癖のない栗色の髪を伸ばしており、更にそれをシニョンにしてまとめている。ノールは癖毛を活かしたウルフカットで、女性らしさの中に活動的なイメージを持たせている

・キーン・ゴールドスミス/51歳
:事務所をウェアシティに構えるやり手の武器商人で、クロウらとは昔馴染みの腐れ縁である。親と子ほども歳は離れているがクロウの厚い義侠心に惚れ込んでいる。
 トロワをクロウに紹介した人物でもある。

・ミーナ・デイモン/30歳
:ゲキシン・クルーザー/ゲキシンガーを設計、建造した妙齢の天才科学者。
 オクスフォード家の朝は早い。夜明け前には主のクロウが起き出し、庭の一角で一人稽古を始めるからであった。まず、広い庭の中を数キロの走り込み。その後、鉄刀木(たがやさん)を削ったものに鉄環をいくつもはめ込んだ特注の木刀での素振り四百本に、四尺の練習刀で居合を抜くこと五百本。槍の素振りを三百本行って、最後に立木打ちで朝稽古は終了する。
 クロウが木刀で地面に打ち込んだ杭を打つ立木打ちを最後に持って来ているのは、大きな音を立てて他の同居人達の眠りを妨げないようにという配慮からであった。稽古の場所も塀際の屋敷からは離れた所ではあったが、クロウの斬撃の強さは並ではなく、これだけ距離が開いていても屋敷に聞こえて来る程だったのである。
 三月とは言え、北方寄りに位置するウェアシティの朝は少々肌寒い。稽古を終え、道着を片肌脱ぎで屋敷を目指すクロウの汗ばんだ身体からは軽く湯気が立ち上っていた。
「はい、いつものグレープフルーツジュースです、クロウ」
「ありがとう、ラビ」
 稽古を終えて勝手口に来たクロウに、ラビが搾りたてのグレープフルーツジュースを差し出すのも日課だった。無論、裸足で稽古するクロウの為に足を洗う手桶とタオルを用意しておくのも忘れない。
「けど、さすがはクロウですね。あんな乱痴気騒ぎした翌朝なのに、いつもの日課通りの稽古を欠かさないんですから」
「いやあ、もう、身体に沁みついているってだけだよ。ラビこそ、よく起きられたね」
「皆さんと違って、あたしはそんなに飲みませんでしたから」
 などと台所で若い二人が話している図は、新婚夫婦の姿そのものである。特にエプロンをつけて台所に立ち、焼き上がったフレンチトーストを皿の上によそったり、コーヒーを淹れたりしているラビの姿は事情を知らない人間が見たら新妻以外には見えないだろう。
 だから、寝床から起き出したトロワもそう理解したのであった。
「知りませんでした。ラビさんはクロウの奥方だったのですね」
「おはよう、トロワ。残念ながら、それは外れだな。ラビは我が家のお母さんなんだよ」
「もう、からかわないで下さい、クロウ」
 そう言うとラビは年頃の娘らしく、ちょっと照れてはにかんで見せるが艶っぽさはない。なるほど、これは確かに妻としての振る舞いではない、とトロワは得心した。
「失礼しました、ラビさん。それはそうと、クロウ。貴方は昨夜、あれほどの量の酒を、しかもチャンポンで呑んだにも関わらず、日課の独り稽古を欠かさず行われたのですか」
「うん、こう見えても酒は強いんだ−酒は呑んでも呑まれるな、ってね」
 クロウはこう事も無げに言うが昨夜、エメラルド・カルテルの一個戦隊を退けてからのBARエバーグリーンでの大騒ぎは9人だけではなく、店全体を巻き込んだ大宴会だった。結局、救われた礼を言いに来た娘たち−例の誘拐犯に攫われた被害者−とその家族も無し崩しに一緒になって、夜更けまで飲み明かしたのである。
(自分の記憶が正しければ、クロウはドブロク、ビール、ワイン、ウォッカと注がれた酒は全て断らず、それもジョッキで呑んでいた筈…斗酒なお辞せずとはまさにこのことか、と呆れたものだったが)
「けど、トロワが潰れなくて本当に助かったよ。いくらなんでも、俺とラビの二人で残りのみんなを運び込むのは大変だったろうからなあ」
「ええ、助かりました、トロワさん。ありがとうございました−はい、これを食べて待っていて下さい。もうすぐ、朝ご飯出来ますから」
 そう言ってラビが作業用テーブルに置いてくれたフレンチトーストとコーヒーをまじまじと見つめながら、丸椅子に腰かけるトロワである。
(参ったな…やっぱり、まだ、少し酒が残ってる)
 トロワは決して酒が弱い方ではない。それは他の男衆が最後まで持たず、店で寝入ってしまったことからも明らかである。それにしても、呑んだ酒量はクロウほどではなかった。それでも、なんとか醜態を晒さずに朝、自力で起き上がることは出来ている。
 にも関わらず、目の前のクロウは易々と日課をこなしているのであった。表面上は平静を保ちつつ、内心、驚かずにはいられないトロワだった。
(いやはや、見た目に反して豪傑であるとは聞いていたが、まさかここまでだったとは。色々、計画を修正する必要がありそうだな)
 そうこうしている残りの面々もそれぞれに起きて来た。が、しゃっきりしているのはセイラくらいで、それ以外は−ミーナも含めて−酒が残っているのだろう、目をしょぼつかせて精気に欠けている。
「さあさ、もうすぐ朝ご飯が出来ますから。食堂で待っていて下さい−ノール、貴方は手伝って下さいね」
「はーい」
「水臭いわね。いつも手伝う、って言ってるでしょ、ラビ」
「そうなると、女で私一人だけ座っているっていう訳にも行きませんわね。なんでも言い付けて下さい」
 こんな風に女性陣が総出で台所仕事に取りかかってしまったので、朝食の支度はすぐに出来上がった。厚切りトーストにベーコンエッグ、シーザーサラダ、コーンスープ。フルーツの盛り合わせに新鮮牛乳にコーヒー、紅茶と質、量ともにそこいらのホテルではとてもではないが敵わない。
(いやはや、大したものだ。流石は辺境、と言ったところか)
 と、内心、トロワは驚嘆したが同時に納得もした。これはオクスフォード家が基本的に都会のデスクワークではなく、なんでも自分でやらなければならない辺境の住人である、という事情があったからである。たっぷりと朝食を取らなければ、力仕事は出来ないのだ。
 そんなことを考えながらスープを口にしたトロワを、更なる驚きが襲った。
「上手い」
 昨夜の深酒で疲れた胃袋に、コーンの優しい甘みが沁み込んで行くのが分かる。先程のフレンチトーストもそうだったが、過度の味付けをせず素材本来の味を引き出すと言う、一流のやり方をラビは心得ているようだった。
「そうだろう、ラビの料理は絶品なんだ」
「もう、クロウったら。トロワさんのお口に合って良かった。まだありますから、お代わりして下さいね」
 そんなこんなで朝食も終わり、皆、めいめいにコーヒーや紅茶を楽しみながら歓談していた。美味い料理で腹も膨れて気分もすっきりしたものか、起き抜けは元気のなかったベンやリック、キーンも昨日の話に花を咲かせている。
「いやあ、しかし、あのゲキシンガーっていうのは凄かったなあ」
「確かにな。ステアリングを握って、あれだけ興奮するマシンはそうそうない。それどころか、生まれて初めてかもしれん」
「ほ、?流れ星のベン?とまで呼ばれるベンジャミン・ケインにそこまで言わせるとは。設計者冥利に尽きるのではありませんかな、デイモン博士」
 ラビが淹れてくれた薫り高い紅茶の湯気を楽しんでいたミーナは、キーンにそう話しかけられるとうつむき加減だった顔を向けた。
「いえ、ゲキシンガーの力は私一人の手柄ではありません。私は失われたシンクロン理論を復活させただけです。賞賛されるべきはシンクロン理論を確立させたドク・エドモン博士なのですわ−って、何がおかしいんですか」
「だって、真面目な話してるのに眼鏡曇ってる。って、痛ぇなあ」
「なにを笑ってるんだ、リック。失礼だろ」
「あ、ああ。し、失礼しました、教授。昨夜の残った酒の上の過ち、ということで勘弁して下さい」
 ベンにこづかれた後頭部をさすりつつ、涙目で謝るリックの姿に思わず一同が笑ってしまった。曇った眼鏡のレンズを拭いていたミーナも思わず顔をほころばせる。と、このまま和やかな雰囲気になるかと思いきや、トロワのこの言葉が一変させた。
「ところで、クロウ。昨日の返事をまだ頂いていないのですが」
「うん、なんだっけ」
「とぼけないで下さい。新太陽系の力なき民衆の為にも、オクスフォード氏には是非、影の護り人として立ち上がって頂きたい、という私の願いを貴方は聞き入れてくださるのですか」
 トロワの熱のこもった言葉と、険しい視線には他の者の介入を拒む力が宿っている。それに気圧されてセイラ達も口をはさめないでいるが、当のクロウはそんなトロワからの気迫をどこ吹く風とばかりに受け流し、笑顔を崩さない。
「そうは言っても、俺達はトロワから詳しい話を聞いていないからなあ。こっちについては大分調べ上げてきたみたいだけれど、今度はもう少しそちらのカードを見せてくれてもいいんじゃないかなあ」
「−分かりました。これはフェアではありませんでしたね。それでは、パワーブレックファーストと参りましょう」
 そう言うとトロワはタブレットPCをテーブルの上に出すと、昨日同様、立体画像を展開した。ただ、そこに映し出されたものは旧太陽系の模式図であった。
「これは大アトゥーム計画が実行される直前の太陽系です。ご覧の通り、水星も木星も健在です。ですが、ヌビア・コネクションが大アトゥーム計画を遂行したことによって、木星は消失。その影響から地球を守る為に発動した保護スクリーン作戦でしたが、そのマテリアルとして水星や木星の衛星は使用されて、こちらも消失してしまいました」
 と、映像は切り変わって今度は木星と水星が存在せず、地球軌道上に36個の惑星が浮かぶ現在の新太陽系のものとなった。
「これが計画から200年後−現在の新太陽系と呼ばれる我々の世界です。本来ならこれほど早く惑星が定着する筈はなかったのですが、それはヌビア・コネクションの科学陣によってテラ・フォーミングが為されたことによります。
 こうして誕生した新太陽系の秩序を崩壊した地球連邦政府に代わって担うことになったのが、先の科学陣が元になった建国した神聖ヌビア帝国となります。帝国は武力と科学力、豊富な資源によって混乱した新太陽系を平定し、統治者となったのです」
 ですが、36の惑星からなる新太陽系はあまりに広く、未だ全てを支配するには至ってはいません。このハイライズ星のように警察機構が不完全ながら整備されているのは稀で、大半の惑星では市民による自警団に頼らざるを得ないというのが実情です。
 ご承知でしょうが、昨日のクロウの誘拐犯に対する行動も自衛権の行使という形で警察機構の不備を補完するという形で黙認されている、というのが現状です。
 いえ、自警団が組織出来ていればいい方で、少なくない惑星は−」
 と、そこまで言うと今度は各惑星海に文字がオーバーラップする。そこにはそれぞれの惑星海を縄張りとする広域武装犯罪組織?カルテル?の固有名が書かれていた。
「このようにカルテルによる事実上の支配下に置かれているのです。当然ながらそれは帝国との二重統治であり、住民は塗炭の苦しみを強いられています。
 それ以外にも−」
 こうして熱弁を振るうトロワを制止したのは他でもない、クロウだった。
「いやいや、知ってるかもしれないけどうちの死んだ母は女家庭教師(ガヴァネス)だったんでね。歴史は俺も叩き込まれたけれども、帝国建国を語るならそれまでも在野で復興に尽力したアーウィン家とゴーショ家の名を出さないのは不公平ってもんじゃないのかなあ。
 ま、それはさておき。新太陽系の決してまともとは言えない現状はこっちもよく知っているさ。それに心を痛めない人間なんて、そうそういないことも。だから、それを少しでもましに出来るっていうなら、それはもう願ったり叶ったりだよ。
 けど、そんなことを慈善事業じゃあるまいし、私材を投げうってなんて言われたって信用出来ないってことも分かってるんだろう、トロワさん。貴方がどこの誰で、なんでこんな上手い話をここに持ち込んで来るのかをきちんと話さなきゃ。
 はぐらかしたい気持ちも分かるけど、本当のことを言わなくちゃ何も始まらないんじゃないのかな、トロワ」
 トロワが無表情のまま顔をめぐらせれば、食堂にいる全員がじっ、と彼の顔を見つめている。意を決して隣のミーナを見れば、こちらはもう諦めたような表情のまま無言で見返すのみであった。
「分かりました。何もかも、お話しましょう。確かに、私は投資コンサルタントなどではありません。私は−」
 ひとつ深いため息をついた後、トロワが告白を始めたのに合わせたかのように呼び出し音が鳴った。クロウらには聞き覚えのあるその音はキーンの携帯電話のものであった。
「あ、すみません、皆さん。申し訳ないです。もしもし、はい、キーンですが−」
 そう言いつつ廊下に出るキーンを横目にトロワが今度は深呼吸をしてから再度、告白をしようとしたその時。キーンの叫び声がまたも遮ったのである。
「た、大変です、クロウ。依頼人の乗った宇宙船が撃墜されちゃいました」

「どういうことなんだい、キーンの親父さん。他ならぬあんたの頼みだから、詳しい事情も効かずおっとり刀でクルーザーを発進させたが、一体何がどうなってるんだよ、ええ」
「大体、依頼人とか言われたって俺らはまだそんな裏稼業を始めるなんて、まだ決めてないんだぜ」
「正式には依頼人、っていうことではないんですけどね。さっきはつい、そんなことを口走ってしまいましたが。けど、クロウに相談に乗って欲しいということは間違いなかったんですよ」
「まあ、ベンもリックも親父さんを責めるなって。どうやら、込み入った事情があるようだし。なあ、親父さん」
 結局、トロワの告白は有耶無耶となり、それよりもまずその撃墜された宇宙船を捜索すべし、との判断がクロウから下された。クロウが決めたとなれば嫌やはなく、万が一に備えラビとノールの姉妹も含む9人全員が乗り込んでクルーザーは発進した−ラビは腕のいい医者であり、ノールはその助手であった。
 キーンから示されたポイントにゲキシン・クルーザーを走らせるベンやリックだったが、その間も当のキーンに厳しい追及の手を緩めようとはしなかった。ここでクロウが間に入らなければ、更にきつい言葉を二人から投げかけられ、ブリッジは険悪な空気に包まれていたに違いない。
「と、クロウは言うけど、私は納得してませんからね、キーンさん」
「分かってますよ、セイラさん。説明しますから。その撃墜された宇宙船に乗っていたのはソーマ薬学研究所の所長さんで、新薬開発の第一人者でもあるジュリアン博士と言います。
 こちらではジェネリックを中心にした薬を開発していて、私も救急キットの関係で色々お世話になっているんですが、今回、ここが開発した経口鎮痛剤に驚くべき薬効があることが判明したっていうんです」
「ひょっとしてそれは最近ブルー惑星海を中心に流行の兆しを見せている新種の覚醒剤・タナトスと何か関係があるのではないですか」
 戦術情報処理のデスクで操作をしたまま、ディスプレイから目も上げずにトロワがキーンに対しそう声をかけた。
「そうです、そうです。よくご存知ですね、トロワさん」
「ま、蛇の道は蛇ですから−ならば、これを」
 トロワがそう言うと、ブリッジのサブモニターに各種データが映し出された。それは主にニュース記事でブルー惑星海の主だった歓楽街で最近多発している、新型覚醒剤・タナトスによって起きた犯罪に関するものをまとめたものであった。

(Aパート終わり。Bパートに続く)
|2012.11.09 Friday by 小林一俊| comments(0) | 戻る |
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