サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジ〜エピローグ〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジ〜エピローグ〜 1)
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こちらに掲載しているエピローグは元の作品を少し短くした短縮版になります。
完全版は(こちら)をどうぞ!
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透明なガラスのドームの中で、あたしは満天の星を見ています。ずっとずっと都会から離れた山の中の月の無い真っ暗な夜よりもっとたくさんの星。でも、どんなにたくさんあっても知ってる星座の形にはつながりません。

なぜってこの宇宙船、地球、ううん、銀河系からもずっと離れた場所を飛んでるから。

「陽子。そろそろランチの時間だよ?」
「あ、マゼラン!」
ドームのてっぺんあたりに浮かんでたあたしは、天井の小さな出っ張りに掴まって向きを変え、入り口に立ってるマゼランに向かって自分の身体をそっと押し出します。が、狙いはちょっとずれて壁に衝突‥‥しそうになりましたが、手を伸ばしたマゼランがちゃんと抱きとめてくれました。

「無重力区画に長くいると、あとで身体が辛いよ」
「うん。でもここあんまりきれいだから、つい」
「それにしても短時間で、ずいぶん動くのに慣れたね」
「でしょ! こーいうの大好き!」
「まったくおてんばな君らしい」
くすくす笑いながらあたしの手を引いてくれるマゼランに軽くパンチ。

メインルームの区画にくると、急に身体が重くなってトレーニングっぽい感じになります。ただ歩くだけでもちゃんと身体使ってるんだってことがわかりますよー。だからマゼランは心配するのですが。でもねえ、無重力ってほんとに面白いんだもん♪

今、あたしたちは、小さな(といっても小さいお家1軒ぐらい大きいですが)宇宙船で、マゼランの故郷(本部?)に向かっています。地球はマゼランの先輩、0024のオーディさんが見てくれています。体感距離は3日ぐらいとマゼランは言ってましたが、外はいつも真っ暗だし、リープの間とそのあとちょっと気持ち悪くて寝ちゃったし、どこからどこまでが1日なのかわからなくなっちゃう。

でも、地球人類初の外銀河への宇宙旅行はおおむね順調に進行中です。到着してから何が起こるか不安はあるんですが、ここまで来たらなるようにしかなりません。

   * * *

本当はあの事件のあと、あたしの記憶は消されてしまうはずでした。あたしの中のエネルギーは無くなってたから。でも、そうはならなかったんです。
神月島にキャンプに行って事件に遭い、あたし自身も苦しい思いをしました。でもマゼランはもっともっと傷ついて‥‥。なのに彼は命と引き換えにあたしを助けてくれた。あたしはあの時のマゼランを絶対忘れません。たとえ記憶を消されても、あたしの中に、あの時のマゼランは残るはずです。

あの時、マゼランの船の機械の上で目が覚めて下を見たら、階段によりかかるように座り込んでいるマゼランが見えました。身体に絡まってたコードみたいなのをとって、急いで降りたら‥‥。

彼のシャツは真っ赤に染まってました。左手もちぎれたままで、傷口から金属のようなものも見えました。それでも最初、彼は眠ってるんだと思った。そう思いたかったからそう見えただけなんでしょうけど、マゼランがあまりにも幸せそうな顔をしてたから。楽しい夢を見てるみたいに本当に楽しそうに微笑んで‥‥。

でも触れた頬は氷のように冷たくて、息も無い、鼓動も無い。揺すぶって、叩いて、名前を呼んで、いくら呼んでも反応がありません。もちろんキスもしたけどエネルギーが無いことはわかりました。身体の中から温かくなるあの感じが無かったから。

マゼランの右側の床に、なんとか文字とわかるものが血で書いてありました。一緒にいられなくてごめん。君と会えたことにとても感謝してる。1日半で先輩が来るから言うことを聞いて。困ったらテーブルの上のメモを見て‥‥。脇にはバレッタもちゃんと置いてあったし、テーブルの上にはあたしの旅行バッグ含め色々置いてありました。

こんな大怪我して、すごく痛くて苦しかったでしょうに、こんなにあたしのことばっかり考えて‥‥。あたしは結局なんにもできなくて、マゼランは全部一人で抱えて逝ってしまった。そう思ったら、ただただ苦しくて悲しくて‥‥。大声で泣いて、泣いて、息をするのも苦しくなるぐらい泣いていたら、モバイルが小さく振動したんです。もしかして、マゼランがいつも連絡してた人とつながってる‥‥!

あたしはバレッタを髪につけ、モバイルを取り上げて叫びました。
「マゼランが起きないの! お願い、マゼランを助けて!」
少しの沈黙のあと鳥の声のような高い声がモバイルから聞こえてきて、少し遅れてバレッタがしゃべり出しました。
〈そこにいるのは管理対象星の娘ですか? 今エネルギーボードを送りました。0079に渡しなさい〉

そのうち部屋の隅の装置の中にいきなり銀紙に包まれた四角いものが現れました。でもどうやったら開けられるのかわかりません。
「エネルギーは届きました! でも取り出せないの!」
〈0079はどうなりましたか? そちらの言葉はまだ私にはインプットされていません〉
「お願いよ! どうやったら出せるの! 教えてくれないなら壊しちゃうよ!」

〈そろそろエネルギーボードが到着するはずです。グランゲイザーの配置は‥‥。メインルームのパネルの脇です。透過カバーの周囲を左下から右下まで撫でれば開きます。早く0079に渡しなさい!〉
急いで言われた通りにしてみました。何度かやっているうちにうまく扉が開いたのですが、今度はマゼランがどうしても口を開いてくれない。なのでもう一度チョコを食べて、キスをしました。

マゼランさえ生き返ってくれたら、あとはどうなってもいいと思いました。記憶を消されて、マゼランのことを忘れてもいい。ううん、チョコを食べた罰で殺されたっていい。とにかくマゼランに生きててほしいってそれだけ祈って。
そうして神様はまたあたしの願いを聞いてくれたんです。

   * * *

「マゼランが地球にいる間、どのくらい宇宙人って来たの?」
ランチを食べながら色々質問。訊ねたいことはいっぱいあったけど、マゼランを困らせたくなかったから聞かないようにしてたの。でもOKになったので、最近はもう質問攻めです。
「太陽系全体だと3万回ぐらいかなぁ。たいてい勧告だけでおとなしく退去したけど」
「ちょっと待って。太陽系って、マゼラン、太陽系全部カバーしてたの!?」
「他の惑星は基本保護省の自動監視システムが見てて、僕は時々フォローに行くだけ。地球人が探査機あげる時は毎度設定変えて、スルーするようにしてる」

「火星や木星にみんな何しに来るの?」
「資源狙いがほとんど。太陽系の資源は今のところ地球人に権利があるから、勝手に盗まれちゃ困るだろ?」
「え‥‥そういうものなの?」
「ここの系は地球以外の惑星に高等動物、ええと地球で言うと魚以上の動物が発生する可能性が無いから、君たちが他の惑星を採掘しても僕らの勧告対象にはならない。シンプルで助かるよ」
「もし火星や木星に動物がいたら、地球が好き勝手しちゃだめなのね?」

「その通り。たとえば火星に動物がいたら、それはそれで未接触惑星だから勝手に採掘しちゃダメ。あくまで違反するなら連合が乗り込んでくる。まあそこで宇宙の住人になってめでたしめでたしになることも多いけど、厄介なケースに発展することもある」
「無人の新しい島を見つけて、どんなに植物や虫や鳥や動物がいても欲しい物をどんどん持っていっちゃって‥‥。誰もいないから見つけた者の権利だって言い張るみたいな?」
「そうそう。まあ地球では何百年か前までは、人が住んでても勝手に自分のものにしちゃってたもんね」

マゼランは屈託無く笑ってますが、それって‥‥。
「‥‥マゼラン‥‥地球人の事、嫌いにならなかったの? たとえばあたし達の祖先は、原住民族をたくさん殺して、アメリカを作ったんだよ?」
「うん。知ってる」
「それって宇宙の法律から外れてないの?」
「なんで? 法律は他の惑星を荒らしちゃダメってことだよ。所有欲には技術を伸ばすメリットも確かにある。ただ野放しだと大変だから惑星単位を限度にするのが今の連合の基盤なんだ。惑星の境界なら重力値で厳密に引けてわかりやすし、宇宙空間は海と違って資源が無いからもめ事も発生しにくい。それに、そういうので嫌いとか好きとかは、僕には無くて‥‥‥‥」

ふとマゼランがどこか心もとない表情を浮かべました。
「‥‥そういうのを許せないと感じるようになったら‥‥、ちょっと怖いな‥‥」

大きなキャンディをうっかり飲み込んじゃった時みたいな気分になりました。「惑星の自然な進化を守る」と聞いた時はごく素直に納得できたのですが、ちょっと考えるといきなり話が複雑になります。だから厳密に法律を守るしかないわけで‥‥。マゼラン達がやった事を、あたしはこれから知るようになる。それだけでも、どこか空恐ろしいような気持ちになるのに‥‥マゼランはもっと‥‥。

|2013.04.26 Friday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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