サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジ〜エピローグ〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジ〜エピローグ〜 3)
「着いたよ。あの星だ」
マゼランが示した星は真っ黒と青のまだら模様。青いところは海‥‥だと思いますが、大陸部分がほとんどオニキスみたいに黒いってどういうことなんでしょうか。
「どうしてあんなに真っ黒なの?」
「ほとんどが太陽電池パネルだから。大気組成が悪くて太陽の光が強すぎるんだ。戸外に居られないどころか、変異が発生しすぎて生命として定着する確率が低い。なので逆に建物だらけにして連合の本部にしたんだ」
全部建物‥‥。全部太陽電池‥‥。考えらんない‥‥。

船はもう大気圏に入ってます。緩やかに降りていく‥‥つまり宇宙船がだんだんに飛行機になっていくような感じなので大気圏突入も楽勝。さすがに本部は出入りが多いようで、混んでて着陸までに時間かかるんだよなぁと操縦席のマゼランがぼやいてます。
「重力は地球の8割ぐらい。酸素濃度が低めだから部屋の外では必ず簡易マスクつけて、具合悪くなったらすぐ使って。あと一日が地球の32時間ぐらいあるから疲れると思う。早めに寝たほうがいいね」

宇宙でも生命は細胞から出来ていて循環に水を使うのが多数派だそうで、本質的には地球の動物とあまり変わらないそうです。たいていは水と酸素が必要。自分で栄養を作れる人もいるけど、一応食事や睡眠も必要。ただ家や衣類といった生活習慣のレベルになると本当に様々で、たとえば服を着る種族もあれば着ない種族もあるそうです。ということで、当初色々想像してたよりは敷居は低そうなんですよね、宇宙生活。

どんどん地表が近くなっていって、高速道路のような道が何本も走っている箇所が見えてきました。道は薄いグレーで黒い屋根の中に消えていきます。マゼランはそのうちの一つに船を着陸させて黒い屋根の下に入っていきました。駐車場みたいなところの一角に器用に船が入ります。
あたしは簡易マスクを付けてます。マスクと言っても薄い生地で顎から鼻までを覆ったのに小さなパックがつながってるだけ。邪魔な時は顎の下におろしておけばいいの。まったくなんでこれで役に立つのかわかりませんが、実際に苦しくないんですよねぇ。こういう小さいグッズにも、本当に驚かされます。

マゼランの後について船から降りてゲートに向かいます。途中トンネルみたいな所をくぐって出たところ、係の人にマゼランが言いました。
〈未接触惑星保護省第二十八局所属スタージャッジ0079です〉
制服を着た背の高いその人が屈んでマゼランの額に何か装置をあてました。
〈承認しました。後ろの人物が851銀河104系第3惑星の生命体ですね?〉
〈はい〉
〈あちらに担当官が来てますのでどうぞ〉

係の人が示した先にいたのは制服を着た二人の人。二人とも地球人に似ています。2m越えた人は小さな角があって目が4つ。もう一人は180cmぐらいで‥‥ほとんど地球の女性に見えます。肌がすごく白くて、目は全部紫色なのが違ってますが、とびきりの美人のお姉さんです。
〈ビメイダー管理局のアタカマです〉
角のある人が身分証を見せてそう言います。次にお姉さん。
〈ID管理局移民課担当官。医師でもあります。ルチルと呼んでください〉
〈スタージャッジ0079です。こちらが‥‥〉
〈初めまして‥‥ヨーコ、と、呼んで、ください〉
恐る恐る標準語で言ってみたら、二人が固まったので、マゼランに小声で聞きました。
「ダメ‥‥だった?」

いきなりルチルさんがあたしに抱き付いてきました。
〈ヨーコね! 貴女、標準語、もう勉強したの!?〉
あたしは手をバタバタさせて英語で叫びました。
「挨拶だけです! 挨拶だけ教えてもらったのっ」
〈ドクター・ルチル。来る途中で挨拶だけ勉強したんです。まだ意志疎通は無理です〉
マゼランが笑いながら言います。
〈でも偉いわ。気に入ったわ!〉
「あ、ありがとう‥‥」

〈じゃあまず博士からのプレゼント〉
ルチルさんが赤いちょっと派手なペンダントを出しすと、どこかを押さえてあたしに向けます。
〈なんでもいいから何かしゃべって〉
「え? あ‥‥ただいまマイクのテスト中‥‥」
〈OK。これで貴女の言うことだけを標準語にしてくれるわ。双方向だから今までの翻訳機外していいわよ〉
「ほんとに? あたしの言うこと、わかってくれるの?」
言い終わるか終らないかのうちにペンダントから標準語が、バレッタからそれを翻訳した結果の英語が聞こえてきました。

〈博士がわざわざ陽子のために?〉
マゼランの問いにアタカマさんが肩をすくめて答えました。
〈ここのところライプライト博士の"膨大にして深淵なる灰色の脳細胞"はフル稼働だった。0079、君と君の担当惑星とヨーコに首ったけでね。日々君の送ってきたデータに埋もれていたわけだ。となれば双方向の翻訳機なんて文字通り朝飯前だって、わかるだろう?〉
ライプライト博士はマゼランを作った博士だと聞きました。天才ばかり生まれる星の人。ライプライト博士って実際はご夫婦で、旦那様がライト博士、奥様がライプ博士。でも一心同体みたいなものだから普通はまとめてライプライト博士って呼ぶんですって。キューリーご夫妻、って感じなんでしょうね。

〈じゃ、0079。お嬢さんは預かるわね。2、3日で終わると思うけど、また連絡するから〉
言われてた通りここから二人は別々です。マゼランがちょっとだけあたしの肩を抱き寄せると、早口の日本語で言いました。
「怖いことないから。君の思うとおり感じたとおりに行動すればそれでいいから。頑張って」
「うん、ありがと。マゼランも気を付けてね」


エレベータのような乗り物で降りてから結構歩きました。地球のビルの廊下と違って丸くなってるとことか動く廊下も多くて、絶対一人じゃ元に戻れません。背の高いルチルさんについて一生懸命歩いてたらちょっと気分も悪くなって、慌ててマスクも使いました。
ルチルさんの部署の区画につくと、彼女はまずあたしの部屋に案内してくれて、荷物を置いてから夕食に行くことになりました。レストランは"街"にあります。"街"というのは建物の一階のことで、天井がすごく高くて、一軒家風に作られてる区画がたくさんある場所のこと。天井全体が本当の太陽の動きに合わせて明るさを変えて、まるで外にいる気分になるように作ってあるんだそうです。

この星は連合の政治の組織や団体が集まっているので、色んな大きさの人がやって来る。でも現実問題色んなサイズの人が一か所に集まると大変なので、身体の大きさごとに建物が別になってるんですって。今あたしがいる建物は身長が地球人ぐらいからオーディさんぐらいの人達向け。地球人は宇宙平均からすると小さいほうなんだそうです。

しかし皆さん、ほんっとうに色々です。身体が毛皮で覆われている人、羽毛の人、ウロコ?みたいな硬そうな身体の人もいます。そういう人たちは服を着てたり着てなかったり。でもあたしやルチルさんのような肌の人はみんな服を着てるみたい。服を着るのは、その‥‥ハダカでいることが恥ずかしいせいと思ってたのですが、ルチルさんには「保護ができればなんでもいいのよ」とあっさり言われてしまいました。な、なるほど‥‥。

入ったお店はルチルさんの故郷アナタイス風。地球人の生物学的構造は比較的アナタイスの人に似ているんだそうです。だとすると食事も普通に食べられるのかな?
店内はシンプルで機能的な感じですが、久しぶりに金属以外の壁に囲まれてほっとした気分です。案内されたテーブルは少し奥まった一角。面白いのがテーブルが菱形なこと。120度ぐらいの広い角を挟んでルチルさんと座ります。横に並ぶよりは相手が見えるし、でも正面じゃないからあまり緊張しないし、なんかいい感じです

〈ねえ、ヨーコ。あなた本当に、0079の記憶を消されたくないだけで、特殊市民の申請をしたの?〉
「はい」
〈特に宇宙に出たかったわけじゃないのね?〉
「はい。‥‥あの‥‥ごめんなさい。あたしの星だと、まだ普通の人が宇宙に行くなんて考えられなくて‥‥。宇宙飛行士になろうって頑張ってる人ももちろんいますけど、あたしはそうじゃなかったから‥‥」
〈謝る必要なんてないのよ。特殊市民ってかなりレアケースだから聞いてみただけ〉
「あたしみたいな人、あんまりいないんですか?」
〈そうね。たとえば奴隷商人に無理やり拉致されて身体を改造されて帰れなくなったとか、事故で故郷がわからなくなったとか、そんなケースかな。とにかく少ないわね〉

そこにお料理が出てきて、おっかなびっくり食べてみました。薄味ですが思ったより美味しく食べられます。でもどう見てもシチューなのに冷たいの! これは盲点でした。温度の好みもまた色々違うんですね。宇宙のアイスクリーム、ちゃんと冷たいといいけど‥‥。

ルチルさんは本当に質問上手というか、マゼランのことや地球での生活の事を色々お話しました。それ以上にマゼランには聞けないマゼランの事も教えてもらえたのが助かりました。たとえば、マゼランもいつか食事を美味しいと感じられるようになるか、とか。
マゼランが以前、味はわかるけど"美味しい"というのはわからないって言ってたんですよね。味覚や嗅覚は彼にとっては成分分析の感覚らしくて。あたし、ママいなかったからお料理は得意で、マゼランがいつかあたしのお料理を美味しいって思ってくれたら嬉しいんだけど‥‥でももしできないことだったら、そんな風に思ってちゃ悪いから。
でもルチルさんの知り合いのビメイダーの人でも、結婚してから美味しいって事がわかるようになった人がいると言ってました。マゼランが神月島で、風景をきれいと思ったの初めてだって言ってたから、美味しいもいつか判ってもらえるかな。


|2013.04.26 Friday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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