サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジ〜エピローグ〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジ〜エピローグ〜 4)
そんなこんなで何時間いたんだろ。お料理もすっかり食べちゃったし、ちょっと疲れても来ました。初めて外国に到着した日、疲れてるはずなのに妙にハイテンションになってることありますけど、あれと同じですね。
お皿が片付くとルチルさんが手を伸ばしてあたしの右手に触れました。ルチルさんの手、6本指で3本ずつに分かれてるから最初驚きましたけど、こうして見てると、じゃあなんで地球人は1本4本なのかなーなんて、逆に不思議になっちゃいます。
〈ヨーコはほんとに物怖じしないのね〉
「あ。人からよくそう言われます」
〈宇宙に出るの、ぜんぜん怖くなかったの? 何百光年も離れたこんなところに来ちゃって。帰ってみたら自分を知ってる人が誰もいなくなってるとか、そういうことだってあるのよ?〉
「もちろん多少は怖かったですけど、マゼランと一緒に居るためなら何でもやろうと思ってたんです。それに何よりマゼランがこうしてくれって言ったの初めてだったから、絶対に叶えてあげたかったの」

ルチルさんが少し首を傾げました。
〈単一の個体に対する深い愛情って、わたしの生まれ故郷には無い概念なのよね〉
「え?」
〈わたしたちは仲間と繋がっていることが幸せであって、特定の個体に対する執着は無いの。ヨーコが0079のことをすごく好きだってこと、知識としては判るけど、本当に理解するのは難しいわね〉
ルチルさんがさっき言った、"パートナーが固定の星の人たち"という言葉を思い出しました。
「同じ星の人なら誰とでも幸せになれるんですか? 初めて会った人や話したことの無い人でも?」

ルチルさんがにこっと笑って、あたしに触れていた手を上げました。
〈わたしたちは接触テレパスなの〉
「せっしょくてれぱす?」
〈触れている相手の心が読めるの〉
「ええっ!」
ま、まずい。シチューが冷たくてちょっとがっかりしたこととか、ばれちゃったかな‥‥。

〈仲間とは触れれば分かり合えて、精神的に一つになっていく。星全体のためにみんなが同じ方向を向いてる。個体の独立性が低い特性を持った種族なんだと思うけど、わたしたちはこれでいいの〉
地球だったら超能力ですが、ルチルさんたちにとっては、心の中を見たり見られたりするのは、目で物を見るのと同じくらい普通の事なんでしょう。
〈相手が違う種族の場合は心に浮かんだ情景や感情がわかるだけだけど、でも嘘はすぐにわかるわ。これがわたしがこの仕事をしている理由でもあるのよ〉

ルチルさんがもう一度手を伸ばして、あたしの手を掴みました。一瞬、手を引っ込めそうになりましたが、あたしは思いとどまりました。これも検査のうち? 身体の検査で服を脱ぐなら、心の検査ではこれが普通なのかも‥‥。

‥‥あれ? でも、なんで緊張しなきゃいけないんだろう。本当に隠さなきゃいけないことなんて何にも無いんじゃない? もしあたしの中にあたしの気づかない嘘があって、それをルチルさんに見つかったのなら、そのまま不合格になってマゼランと別れたほうがマゼランのためですし‥‥。なーんだ。ドキドキする必要ないんだ。

ルチルさんがくすくす笑いました。
〈ヨーコは強いね〉
「え?」
〈わたし、本気で貴女のこと、気に入ったわ。0079は運が良かったわね、貴女のような子と会えて〉

   * * *

翌日は筆記試験みたいなことしました。簡単な計算とか幾何とか知能検査みたいなの。やはり数学は万国、じゃない宇宙共通なんですね。計算は基本的に十進法が使われてるそうで一安心です。星間取引ではこれ以外に八進法、十二進法、二十進法もよく使われるそう。たとえばルチルさんは十二進法で育ってきたので、初めて十進法を知った時はなんて中途半端なのっ!?って思ったそうです。

ショートスケッチが色々入ってる番組みたいなのも見ました。基本楽しかったですが、よく判らないのもありました。地球人タイプの役者さんが出てくる少し長いお話もあった。子供が怒られて家出しちゃうんですが、親はぜんぜん探さなくて‥‥ですね。でも子供はごく素直に立派な大人になるんですよ‥‥。う、うーん。地球人的に言わせてもらうと、オチがない? これ、ごく普通の成長ドラマなのかな‥‥。途中から、ぽかんとして見てた気がします。

ルチルさんとまた"街"にも行って、教えてもらいつつ、一人で買い物もしてみました。値札の字のところをなでると標準語で喋ってくれるし、金額を示すお金の絵に切り替わる値札もある。こんな調子だから字が読めなくても結構わかるんです。小さい使い捨てみたいな値札がスマートフォンのディスプレイ並み。なんかイヤになっちゃいます。

地球人が食べて平気なお店も教えてもらって、その上可愛いブラウスとスカートのセットアップまで買ってもらっちゃいました! もちろん地球に持ち込んじゃダメですけど、マゼランの船に置かせてもらお! ブラウスがね、実は4本手の人用なんです。ディスプレイを見て、余った2本をリボンみたいに結んだら可愛いかもって言ったら、ルチルさんと店員さんが面白がっちゃって。それでやってみたらバッチリだったんです。なんか店員さんが感動して、この線で売ってみます!って言ってました。2本手の人と4本手の人でペアルックできますし。工場の節約にもなるかも。しかし、もしこれ流行っちゃったらすごいな‥‥。宇宙に流行を生み出した地球人第一号ですよー!

   * * *

二日目は病院と実験室が混ざったような所で身体検査。地球でもこんな細かい検査を受けたことないので、かなり緊張しました。あとはマゼランに関するルチルさんの長い長いインタビュー。マゼランが見てた事はルチルさんも知ってるそうですが、マゼランが見てないこともありますし、あとよく聞かれたのが「どうしてそういう行動を選んだか?」って事。あんまり考えないで動いてたので、答えるの結構困りました。

ただ、白い人の事は‥‥、できたらあんまり思い出したくなかったな。装置のせいかもしれないけど、細かい事までひどくリアルに頭に浮かんできたから‥‥。

その晩あたしは夢を見ました。マゼランが槍で刺されて動けなくなって、血まみれの彼の身体から必死で槍を抜こうとするのですが動きもしない。そこにあの白い人が現れてあたしの肩のあたりをぐっと掴むの。するとそこが火を点けられたように熱くなって、あたしは思わずマゼランの身体から手を離してしまうのです。そうすると白い人はあたしを突き飛ばし、マゼランの左腕を引きちぎります。あたしは泣き叫んで、やめてってお願いするのですが、あいつはまたマゼランの身体に手を伸ばして‥‥。

悲鳴を上げて飛び起きました。体中汗びっしょりになってました。部屋の明かりつけて、汗拭いて、身体が中に潜っちゃう不思議な不定形お布団を丸め直してから入ったのですが、さっきの続きを見そうで怖くて眠れません。
実はあの事件のあと2回ぐらいこんな夢見たんですが、うなされてるとすぐマゼランが来て起してくれて、また眠るまでそばにいてくれたの‥‥。マゼランの声だけでもいいから聞きたい。枕元のバレッタを手に取って少し悩みましたが、結局リボンを回してしまいました。

「陽子?」
「‥‥今‥‥少し話しても‥‥大丈夫?」
「もちろんだよ。もしかして、夢見たのかい?」
「うん‥‥。怖くて、眠れなくなっちゃって‥‥」
「移民局の記録、さっき見終わったんだ。君がまた怖い夢を見るんじゃ無いかって心配になってたとこだった」

心の中にふわっと温かさが生まれました。マゼランはあたしの事を"わかって"くれてる。あたしの感じた恐怖も悲しみも全部‥‥。あたしが経験したことを"知ってる"って事と、"わかっててくれてる"って事が、こんなに違うなんて‥‥。
「‥‥ありがと、マゼラン‥‥」
「安心して。この星は絶対安全だから。そっちに行こうか?」
「‥‥ううん‥‥。大丈夫。マゼランの声聞いたらほっとした」
「そういえばドクタールチルが君の事すごく褒めてたよ。価値観が柔軟で、なんでもすぐ受け入れて、すごくいいって」
「ほんと? 嬉しい。ルチルさん、すごく優しいの。お姉さんみたいなの」
「いい人で良かったね」

「マゼランの方は大丈夫なの? あの‥‥、あたしのことで、色々怒られたりしてない?」
マゼランが笑い出しました。
「そんなことないよ。博士には面白い子を見つけてきたって褒められた。早く君と会いたいって」
「え! そんなこと言われたら、緊張しちゃうよ。マゼランもやっぱり試験みたいなの受けてるの?」
「実を言うと‥‥やっと今日オーバーホールが終わったとこで、肝心な話は進んでない気がする」
「オーバーホール?」
「身体から電子頭脳から徹底的に博士に見てもらって、悪いとこ全部治したんだ。だから今、絶好調だよ。アーマーなくても空飛べそう」
「すごーい! 良かったぁ!」

さっきまであんなに怖かったのが嘘みたい。

マゼランの声が好き。クリアにはっきりと、でも心地よく穏やかで、あの厚い胸で広がって響いてくるようなこの声が大好き。ビー玉が転がるみたいな笑みが混じったり、遠くから空気をコントロールしてあたしを包んでるみたいに優しく慰めてくれたりするの。モバイルやバレッタの向うでどんな顔してるか、手にとるようにわかる。言葉と言葉の余白にすら、あたしのこと考えてくれてるって思えるから。

こんな人は全宇宙に一人だけ。
マゼランだけ。


|2013.04.26 Friday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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