サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジ〜エピローグ〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジ〜エピローグ〜 5)
三日目は検査はありませんでした。ルチルさんが急な用事が出来たから、今日は一人で街で遊んできていいわよって言われたんです。モバイルで連絡とる方法を教えてくれました。アメリカで使ってたスマートフォンと同じでナビもついてるので困ったら部屋まで案内してくれます。お金も少し頂いてしまって‥‥(汗)。

さすがに部屋を出る時はちょっと勇気が入りましたが、でも早く慣れたい気持ちもあって、なんどもモバイルの使い方を確認してから外に出てみました。
まずは一昨日教えてもらったカフェでブランチ。一人で食事できた自分に感動。この街のお店の人たち、すごく親切なんですよね。日本人もほんとに親切だと思いますけどそれと同じ。あたしは見慣れない姿の人間なわけで、それを態度に出さずに親切にしてくれるのって有り難いです。

それから一人で色々と歩き回ってみました。空の上が役所の塊ですから、街を歩いている人たちは、みんなてきぱき歩いていて、どんな姿の人でもなんとなくカッコよく見えます。夏休みにパパの会社に行った時のこと思い出しました。

公園(と思われる場所)に出ました。噴水あるんですよ、噴水! 肉体を保つ養分を運ぶのに水が便利であるのは宇宙でも同じってマゼラン言ってましたから、水を見ると安らぐ感覚は共通なのかな。なんか嬉しい。
その公園でね、どう見てもアイスクリームに見えるものを売ってたんですよ! ‥‥でも‥‥とっても残念だったのですが、我慢しました。だって地球人が食べたら酔っぱらう材料かもしれませんもの。ラバードさんの6本足君みたいにこんなとこで寝ちゃったら困る。

ラバードさん、どうしてるかな。怪我、ちゃんと治ったのかな。
マゼランが教えてくれたのですが、ラバードさんも自由人のビメイダーだったんだそうです。恋人がいて‥‥ずっとずっと昔に亡くなったって‥‥。

友達ならお前がなれ。道が開けるかどうかはお前にかかってる。愛してるなら、勇気を持て。

あの時ラバードさんに言われた言葉。バレッタからマゼランの叫び声が聞こえてきた時、行こうと決心したのはその言葉のおかげもありました。結局あたしはうまく逃げられずにマゼランに迷惑をかけたのですが、あたしの代わりにもっと多くの人に被害が出た可能性が高かったと言われて、ちょっとだけ気が休まったものです。
今回、マゼランが自由人になれたのもラバードさんが何か言ってくれたかららしく、あたしはラバードさんにとても感謝してます。地球に戻ったらまた会えるかな。そうしたらお礼言わなきゃ。
あれ? でも会える時ってラバードさんが悪さをした時‥‥? そ、それは困る‥‥(汗)

なんだか人が増えてきました。休み時間? いろいろな人がいて本当に楽しい! 何が楽しいって、全然違う形の人が連れだって歩いてるのが素敵! 熊さんタイプと鳥さんタイプとか、トカゲさんタイプの尻尾と手を繋いでる地球人タイプの二人組も! どこか映画見てる気分で、ほっぺたつねりたくなります。
ごくたまにですが、親子連れに見える人たちもいます。子供は親より小さいし、どの世界でも動きが危なっかしいんですね。うんうん、これも地球と似てる似てる。

そんなこと考えてたらパパのこと思い出してしまいました。ここに来る前、パパには電話して、また別の離島に行くって嘘つきました。でもいつまでこうして嘘をつき続けるのは無理。‥‥パパの記憶を一度消してもらって、普通の人としてマゼランを紹介する‥‥? それが一番現実味がありそう‥‥。

ごめんね、パパ‥‥。
ほんとにごめんなさい。でも、あたしにとって、マゼランはとても大事な人なの‥‥。パパにはママがいるから、今もきっとパパのそばにいるから、許してね‥‥‥‥‥‥

少し考え込んでたら、いきなりわんわん泣いている子供が抱き付いてきて驚きました。かなり地球人に似てる子供だったのですが目が4つ。あと小さな角が2本、髪の中からちょこんと出ています。神話のパーンみたい。
でも困ったことに「どうしたの?」っていくら聞いても、子供のほうが標準語が使えないくて、意志疎通ができないんです。回りの人が手助けにきてくれたのですが(おかげで、やっぱり"泣いて"たんだってっこともわかりました)、あたしから離れると大泣きするんですよ(汗) 地球人タイプの人がいなかったから、きっと怖かったんだと思う。
仕方ないので一緒に交番のに行って結局ずっと遊んであげることになりました。間が悪いことにお巡りさんまでトカゲさんタイプだったから‥‥。お巡りさんには名前と出身地を聞かれまして、ルチルさんに電話して説明してもらいました。

だいぶしてからようやくお母さん(たぶん)が来てくれたときは、ほんとにほっとしました。ベビーシッターやお守りのバイトはあたしの得意技だし、実際可愛い子だとも思ったんですけど、地球の子と同じに付き合っていいのかとか(まあ同じようにするしかないけど)、おっかなびっくりだったので。でもお母さんがすごく喜んでくれたのは嬉しかったです。

で、問題はそのあと起こりました。お巡りさんが送りますと言ってくれたのですが、あたし、一人でお食事買って帰るつもりだったので、いいです、って断ったんですよ。せっかくのチャンスだから、色々やってみたかったんです。ルチルさんに教えてもらったもう一つのお店、少し遠回りだったけどそこまで行って、緊張しながらお買い物して、これで今日のチャレンジは全部終わり!と思ったら、そこでいきなり気分が悪くなってることに気づきました。

酸素マスクの酸素が切れてたんです。子供と遊んでた時もずっと使ってたから‥‥。気が張ってたみたいで、逆に気づかなかった‥‥。一昨日とか無くて大丈夫な時もあったから予備のパック持って出なかったの。荷物になるわけじゃないんだから持ってくれば良かった‥‥。
でも、息ができないわけじゃないし、あと少しだし、なんとか行けるだろうとそのまま部屋に向かいました。エレベータに乗ったあたりから周囲がぐるぐるとぼやけてきて、部屋まであともう少しというところで、あとの記憶が‥‥‥‥。

気づいたらソファに寝かされていて、そばにルチルさんがいました。
〈ヨーコ。酸素パックの予備、持って行かなかったのね〉
ルチルさんの顔は優しかったけど、声には厳しい感じがありました。
〈適した気圧と呼吸。この二つが保持できなかったら人はすぐに死ぬの。それを絶対に忘れちゃだめ〉
「‥‥はい‥‥」
〈貴女の今日の行動は良き市民として悪くないものだったけど、小さな想定外がいきなり命に関わる事もある。トラブル・ステーションで事情を話して帰るか、パックを買いに行くべきだった。最悪、具合が悪くなった時点で助けを求めるべきだったわね〉
「‥‥ごめん‥‥なさい‥‥」

ちゃんと準備しないで山に行って、状況の把握もせずに高いところに登ってしまったと同じです。こんなことで死んじゃってたら、マゼランがどれだけ悲しむでしょう。あ‥‥。まさかこれで、試験落ちちゃたら‥‥?
「あ、あの、ルチルさん。あたし‥‥」

ルチルさんがあたしの頬を撫でて、ふっと笑いました。
〈明日はライプライト博士のところに行きましょう。おめでとう、ヨーコ。貴女は立派に連合の市民よ。そしてもう一つ。0079の検査と手続きも全部終わったそうよ〉

   * * *

翌日。
朝からちょっとドキドキしてます。ルチルさんに買ってもらった例の4本手の服を着て、リボンに結んだ袖をなんどもチェック。ライプライト博士がこの服を着たあたしが見たいって仰ったんですって。そんなこと言われたらなんだか緊張しちゃう。
そのうちルチルさんが来てくれて、モノレール?みたいな乗り物に少し乗って、別のビルに行きました。受付でルチルさんが説明してくれて、あと、ブレスレットになってる身分証を初めて使います。それで小さな個室に案内されて、ルチルさんと座って待つことになりました。

その個室には不思議なインテリアがありました。円筒形のガラスケースなんですが、中心のあたりで何色かの光の粒が増えたり減ったりしながらぱたぱたといろんな形になって動いていくんです。粒は小さくて、それがまずレゴみたいに色んな形のブロックになって、それが遠目に見ると何かに見える‥‥んだけど、すぐまた形が変わってく。

「‥‥ライフゲームみたい‥‥」
〈生命ゲーム? なあに、それ?〉
「地球にある2次元のシミュレーションで先生が見せてくれたことがあるんです。マス目の一部を塗って、あるルールで動かしていくといろんな形になって、初期値によって増えたり無くなっちゃったりするの。見てると面白いんですよ」
〈あら、同じようなのあるのね。これは粒子挙動シミュレーションって言うんだけど、粒の色が叡智の度合いを表してて、ルール+叡智の配合で動きが変わるの。ベースになってる粒子挙動論は生命の発生や進化はもとより社会学や経済学にも応用できるの。でも生命ゲームって面白い言い方ね〉

「なんのために置いてあるんですか?」
〈ビメイダーの人工知能は粒子挙動がベースになってるから。だから一人として同じビメイダーは居ないのよ。まさに人工生命。だからこれはビメイダー局のシンボルなの〉
数学や物理が共通なのは当然でしょうけど、こういうのも同じなんですね。なんとなく嬉しい。そのうえ色がついてて3次元だからすごくきれいです。

「ねえ、ルチルさん、ライプライト博士ってどんな方ですか? あたし、気に入ってもらえるかしら‥‥」
〈ライト博士は冗談が大好きで突拍子もないまさに天才的な発想をする人。ライプ博士はとにかく優しくて緻密で原則に忠実。ただ二人とも、なにげに好き嫌いが強いかしら。嫌われるとなかなか会ってもらえないのよね〉
「えっ!? ど、どうしよう‥‥」

〈ヨーコ。今日の面談は儀式みたいなもので、今日の結果で認定が取り消されたりはしないのよ。状況によっては二度と会わないかもしれないし、気に入ってもらえるか、なんて面白いこと気にするのね〉
「だってマゼランのパパとママみたいな人だし‥‥。博士がマゼランのことを思い出す時、あたしの事も思い出してイヤな気分になったら、マゼランが可哀想じゃないですか」
ミナゾウおじいちゃんが月子ママのこと思い出すたびに、パパのこと怒ってたみたいに‥‥。両方地球に居れば、パパのようにいつか分かってもらえるかもしれないけど、こんなに遠くちゃ‥‥。マゼラン、よほどのことがなきゃ百年に一回ぐらいしか帰らないとか言ってたし‥‥(汗)

ルチルさんが呆れたように笑ってます。
〈貴女の発想には参るわ。問題ない‥‥というか、たぶん"ラスカル"博士は、貴女をすごく気に入りそうよ〉
「ラスカル? 誰ですか、それ?」
〈うーん、ごめんなさい。会えばわかるわ〉
いったい誰? 息子さんもセットなの? なんかもう得体が知れない‥‥。


|2013.04.26 Friday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
コメント









| /PAGES |
作品タイトル
選択内投稿一覧
| /PAGES |
最近のコメント
ライター
リンク
作品