サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジ〜エピローグ〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジ〜エピローグ〜 6)
と、しゅっと音がしてドアが開いて‥‥そこに立ってた人を見て‥‥いや、もちろんマゼランが立ってたんですけど、あたし、固まってしまいました。
〈お待たせしました、ドクタールチル〉
濃紺のボディスーツにブーツ。マントみたいな丈の長い上着はもっと明るいブルーで、それを前を開けたまま羽織るように着てます。
〈陽子が大変お世話になって、ありがとうございました〉

〈いえいえ、こちらも楽しかったわ。それよりおめでとう、0079‥‥じゃなくて、マゼランと呼んでいいかしら?〉
マントの大きめの白い襟が目に鮮やか。肩から上腕と胸のあたりは赤い別パーツがついてて‥‥変身した時のマントにちょっと似てるけど、もっと柔らかそう‥‥。
〈はい。まだピンときてませんが、ありがとうございます。で、陽子?〉
マゼラン、すごくかっこいいです。凜々しいっていうのかな。あ‥‥また心臓、早くなってきちゃった‥‥。

〈陽子、いったいどうしたんだ?〉
「‥‥あ、ご、ごめんなさい。服が‥‥。違う人みたいで‥‥」
〈今日だけは隊服着ろって、ヴォイスにえらく強く言われたんで、仕方なく〉
〈あら、普段着てないの? これだけでもかなりの防護力があるんでしょ?〉
〈船に居た頃は着てましたけど、地表に住むようになってから全く。もともと事件が少ないし、目立ちすぎますから。久しぶりに着るとけっこうジャマな代物ですね〉
「そんなことないよ! すごく素敵よ!」
思わず力説しちゃったら、マゼランがちょっと恥ずかしそうな顔になりました。
〈‥‥ありがと‥‥〉

〈はいはい。アナタイス出身者を照れさせるんだから大したものだわ。じゃあヨーコは確かにお返しするわよ。博士によろしくね〉
立ち上がったルチルさんに地球みたいにハグ。最初に会ったときハグされたから大丈夫よね。
「色々ありがとうございました、ルチルさん」
ルチルさんもぽんぽんとあたしの背中を撫でてハグし返してくれました。
〈わたしも楽しかったわよ、この数日。またあとで会いましょう〉


個室を出てルチルさんは出口へ、あたしはマゼランについて奥に進みました。通路を歩きながらマゼランの手に触れたら、マゼランがそっと握り返してくれました。
「陽子、ありがとう。こんなところまで来て、一人で頑張って移民局の審査を通ってくれて。これで合法的に君と一緒に居られる」
あたしは思わず吹き出しちゃいました。
「やだ、マゼラン。"合法的に"なんて、なんか悪巧みを考えてた人みたい」

「考えてたよ、色々」
「ええっ?」
「グランゲイザーで君に助けられて、本部と連絡とるまでの間、ずっと考えてた。虚偽の報告をして、データを改ざんして、僕の分身を消して‥‥。何通りもの組み合わせから実現性の高いルートを選んだ。‥‥最悪、君を連れて宇宙を逃げ回る道だって考えてた」
マゼランが立ち止まってあたしを見下ろすと、そっと頬を撫でました。
「でも合法的であれるならそのほうがずっと君を幸せにできると思った。自由人って選択肢は思いつきもしなかったけど、それで君と一緒に居られるなら自由人もいい。君なら移民局の審査は通ると思ってたから」

あたしはまた胸が一杯になりました。この人が「君の記憶は消さない」と言った時、どれだけの覚悟をしてたのか、今初めてわかったから。
「ありがと‥‥マゼラン‥‥」
「礼を言うのは僕のほうだ。君のことさんざん危険な目に遭わせたあげく、いきなり宇宙に連れだした。ただ僕のためだけに、だ」
あたしはマゼランの腕に両手を絡めて、彼に寄りかかるようにして、歩き出しました。
「マゼランのためって事は、あたしのためって事なの。あたしに何ができてるのかよくわからないけど、マゼランが喜んでくれるなら、それでいい。それで幸せ」



マゼランと一緒に部屋に入ると、とたんに身体がふわっとした感じになりました。ほとんど無重力状態になってます。奥の方に大きな人が一人座っていました。挨拶しようと一歩進み出たら、とん、とあたしの前に人が飛び降りてきました。
〈私がライト・ライプライトじゃよ〉
黒い服を着た、あたしより頭一つ小さい人‥‥。白髪のおじいさん、に見えます。
「は、初めまして。ヨーコと、呼んでください」
〈うーん、想像通りじゃ! 可愛いのう!〉
そのおじいさんはいきなりあたしの両腕を掴み、ぽんとテーブルの上に飛び上がりました。テーブルの向こう側は3m近い人。ギリシャ彫刻みたいに白くてきれいで優しい顔をしていて銀髪がきれいに結い上がっています。まるで童話のお姫様みたいに大きく膨らんだスカート。椅子はスカートの中に埋もれちゃってるみたい。しかしテーブルの上から挨拶なんて、どう考えても失礼ですが、こうなったら仕方ない。
「あの‥‥。ライプ・ライプライト博士で、いらっしゃいますか?」
〈はい、そうですよ、ヨーコ。今回はわざわざこちらまで来てくれてありがとう〉
うわー! 奥さんの方はなんて優しそうな博士なの! 素敵! 良かったぁ!

〈うーむ、これかね、キミが着こなしたという新しいアイデアは〉
見たら博士が袖のリボンを引っ張ってて‥‥。
「きゃーっっ ほどいちゃ、ダメですっっ」
慌てて後ろに下がったら、うっかりテーブルの縁を蹴ってしまって、身体が後ろに流れてしまいました。

〈いたたたた‥‥!〉
あたしの身体をマゼランが支えて着地させてくれると同時に、博士が悲鳴を上げました。見たら奥さんが博士の耳を引っ張っています。
〈尊敬すべき貴方。どれだけ興味があろうが、女の子の服のリボンをいきなりほどくなんて失礼です〉
〈愛しい妻よ。だって4本人の服を着ようとした2本人なんて聞いたことがない。どうなってるのか見たい。どうしてそんなこと思いついたのか、聞きたい!〉
〈普通に伺えばいい話でしょう? とにかくもう、戻ってくださいな〉
〈イヤじゃ。私はわくわくしとるんじゃ〉

そういうとおじいさんは奥さんの手をひょいとすり抜け、テーブルを蹴って天井まで逃げてしまいました。ライプ博士がはあっとため息をついて言いました。
「0079、いえ、マゼラン。貴方たちが来る少し前から興奮してこんな調子なの。そろそろ限界だし、お願いしていいかしら?」
マゼランが笑いをこらえた声で「はい」と返事をすると、とんと飛び上がり、逃げ回ろうとするライト博士を捕まえます。
〈ドクター・"ラスカル"ライト。ちゃんとお戻りください。疲れますよ〉
〈疲れとらん〉
〈だってもう、息が乱れてるじゃないですか〉
〈平気じゃ!〉
〈だめですってば!〉

袖を急いで結び直したあたしは、ぽかんとして小さな博士VSライプ博士&マゼランの攻防を見てるだけ。マゼランはあっさりと博士を捕まえて降りてくると、博士を奥さんの手の中に返しました。
ライプ博士は下側の4本の手でライト博士の身体を受け取ると左側の下の2本で、小さな体をスカートの中に包むように座らせます。どう見ても腹話術の人形なんですけど‥‥(汗)。ただおじいさん博士がちょっとぐったりした感じで目をつぶっているので、とても心配になってきました。
「マゼラン、博士、具合悪いの? 大丈夫?」

〈大丈夫だよ、お嬢さん〉
いきなり目を開いたライト博士があたしを見据えてそう言います。さっきまでの悪戯好きのおじいちゃんとはぜんぜん別人。どっちかっていうとロマンスグレーの紳士って感じ。どうなってるの?
「あ、あの‥‥博士‥‥。この服、あたしにはちょっと大きくて、袖をここで結んでないと脱げちゃって‥‥それで‥‥その‥‥」
〈いやいや、言い訳など無用だ。失礼をしたのは私のほうだから。レディに対して大変に申し訳ない〉

もしかして二重人格? そういえばマゼランが言ってた"ラスカル"って名前、さっきルチルさんも言ってたような‥‥。
〈では説明しよう。我々の種族は、男はある年齢になると伴侶に寄生しなければ生きていけなくなる。今のこの状態が寄生している姿だ〉
驚いて大声をあげそうになりましたが、なんとか抑えて、はい、とだけお返事しました。
〈私の身体には最小限の循環器系と少しの脳しかなく、妻から離れると長くは生きられない。私は妻から栄養の供給を受けるだけでなく、妻の体内にある巨大な脳髄を二人で使っているのだ〉
いやそれ、あっさり同意できません。こんな進化っていったい‥‥。でも、目の前に居るんだからありなんだよね‥‥。

〈で、私の脳だけだと、いささか原始的というか‥‥。長期記憶と理性が無くなるために、直感的に暴走するというか‥‥〉
「お酒を飲みすぎた時みたいな‥‥気分‥‥?〉
〈おお! うまいたとえだ。そうそう、離れてしまうといきなり酔っ払う。わかりやすいだろう?〉
「‥‥あ‥‥ま、まあ‥‥‥。で、つまり、離れた博士が、"ラスカル"博士なんですね?」
〈その通り。ただこれの飛躍した発想が研究では非常に重要でな。離れた私が最後のアイデアを出してまとまることがよくあるのだ〉

夢ですごい研究を思いつくとかそういうのかな‥‥。酔っ払ってても同じなの? まあそんなことより。
「あの‥‥もう一つ聞いてもいいですか?」
〈もちろん〉
「そばに誰もいない時に、さっきみたいにラスカル博士がはしゃいでライプ博士の手の届かないところに行ってしまって、具合悪くなって帰れなくなったりしないんですか?」

〈男たちも普通そこまでバカはしないし、いざとなれば連れ戻す他の手段もあるのよ。ただ少々エネルギーを消費するので、あまり使いたくない手なの〉
奥さんのライプ博士がそう言って、あたしはほおっと息をつきました。
「ああ、良かったです。マゼランのパパがあんなに心配な方だと‥‥、どっかで酔っ払って行き倒れてるんじゃないかって、地球に帰っても気になっちゃいそうで‥‥」

〈‥‥0079‥‥。こら、マゼラン! そんなに笑うとは失礼だろうが!〉
ライト博士が拗ねたようにそう言って、見たらマゼランが背中向けて壁に張り付いてて、声は聞こえないですがマントがゆらゆらしてて‥‥。
「マゼラン? どうしたの? あたし何かヘンなこと言った?」
〈‥‥だって‥‥。行き倒れ‥‥。ジーナスの博士が‥‥酔っ払って‥‥行き倒れって‥‥〉
あらら。なんか、笑いのツボにはまってしまったみたいですね。

〈まったく‥‥。お前が驚くほど急速な覚醒を迎えた事がよくわかったよ。私をネタに、言葉が繋がらなくなるほど笑うビメイダーなど、信じられん〉
〈す、済みません‥‥博士‥‥。でも‥‥〉
マゼランが少し赤い頬で向き直りましたが、まだくすくす笑ってます。マゼランってジョークに免疫がないというか、結構笑う方だと思うんだけど、ここまで笑い転げたのは初めて見ました。ああ、なんだか幸せ。マゼラン、楽しいんだ‥‥。

〈マゼラン。笑い事ではありません。ヨーコの言う通り、ライトはジーナス史上初の行き倒れになるかもしれません〉
ライプ博士がそう言い、マゼランが驚いて咳き込みました。ライト博士は情けなさそうに言います。
〈愛しい妻よ、それはないだろう?〉
〈いいえ、尊敬すべき貴方。前の二人の夫と比べて、貴方のやんちゃは度を越しています〉
奥さんにそう言われて、ライト博士はそんなことはないとかぶつぶつ言ってます。それを見てあたしとマゼランはまた笑ってしまいました。


|2013.04.26 Friday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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