サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジ』 原作・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジ 1) 不法侵略お断り
〈ターゲットポイントまであと30秒〉
空にきらめく星と地にきらめく灯火に挟まれて、僕は夜明けを待つ黒い空をひたすらに翔ていた。

〈艇外での活動個体10体まで確認。あと14秒〉
頭の中でヴォイスそっくりの声がささやく。着用しているサポートアーマーに装備された各種センサーと母船の探索結果の統合情報。ある意味僕自身の"思考"のハズなのに任務の時はなぜか彼女の声音で聞こえてくる。

眼下には延々とゴミの山。比喩じゃない。この星には完全な"廃棄物"がまだ存在する。地球人たちは壊れた物質を原子レベルで再構成することも、エネルギーに変換する技術すらも、まだ持っていないんだ。

上空四キロメートル程度の上空に奴らの輸送艇が浮かんでいるのを、僕自身のセンサーにて確認する。形はまさに地球人の考える"空飛ぶ円盤"。少しひしゃげたボールに広めの縁をつけたような形だ。僕にとっても有り難いことに、地球のレーダーに対するステルス加工は万全。その上地球人の可視光周波数帯で電磁波の透過コーティングをしてる。受け取った電磁波を反射せず反対側に放出するから、電磁波的に透明になり、地球人からは"見えない"というわけだ。

そしてその直下。少し平らになった場所にコミカルな異形達がわらわらゆらゆらと仕事に励んでいる。こいつらムジカ星系スブール星の生命体フラーメたち‥‥。ラバードの作業員だ。ラバードは一番しつこく地球を狙ってる異星人なんだ。

「こらっ」
「ひええええっ スタージャッジだぁ!」
「やだよぉ! もう変身してるよぉお!」
飛び降りた僕に、フラーメたちはシャベルやジョウロのようなものを取り落として大騒ぎ。二種類の生物がいるように見えるが同じ種族だ。地球の雄と雌同様、二つの形態から子孫を残すことで環境に適合している。

「スタージャッジが現れたよぉ!」
「ラバード様に連絡してぇえ!」
「応援要請だぁ!」
「もっと降りてこーい!」
次々と輪唱みたいに喚いているのは、大きな目玉を1つだけ持った巨大な(地球人より頭一つ大きい)軟体動物。一応これが"雌"にあたる。身体の大部分は黄褐色。背中側は濃い緑でだいぶ堅い。通信機に向かって騒いでるのがいたが、このぐにゃぐにゃな身体の中にいろんなものをしまって(めり込ませて?)るんだ。ボディからは腕が二本出てる‥‥が、驚かせると増えたりするから手というよりは触手に近い。二本の足も申し訳程度にあるんだが、結局、身体全体をうぞうぞと動かしながら進む方が好きらしい。

惑星スブールは太陽からやや遠くてオゾン層が厚いため、スブールの生命は地球の太陽光の紫外線に弱い。だからこうして夜活動してるんだ。とにかく早いところ退去させなきゃ!
「お前達! 今度は何をたくらんでるんだ!」
「タネを蒔いてただけですぅ!」
「蒔いてただけです〜!」
「持ってきたタネを蒔いてただけです〜〜〜」

種だって!? 大問題じゃないか! 見たら奴らの足元、妙な芽が出てるし!
「地球外植物なんか植えるな!! 自然な進化が妨げられるだろーがっっ!」
「だって、ラバード様が〜」
「ラバード様が〜」
「いいから、さっさとそれ持って帰れ! 全部ちゃんと抜くんだぞ。監視してるからな!」

そうこうするうちに輸送艇の高度が下がってきて、そこからもう5体のフラーメ達が降りてきた。地上に居た連中とごしゃっと集まると相談を始める。
「どうする?」
「変身してるぞ」
「もう変身してるぞ」
「強いぞスタージャッジ」
「ああなってるともっと強いぞスタージャッジ」
そうそう。強いからね。さっさといい子に帰ってくれ。

フラーメの雄は雌より一回り小さいが、明確な手足を2本ずつ持っている。進化の過程で甲羅が変形し、柔らかい部分を包み込んで手や足や首などのパーツを形作った。頸部から上腕にかけてと腰部から上脚部は背中と同様に濃緑の外殻で覆われている。頭は横置きのラグビーボール状で、その両端が派手なオレンジ色の渦巻き模様。ここからコウモリのように超音波を出して周囲の状況を把握するだけで受光器官は無い。そのせいか雄は光に多少強くて、厚めの雲が出てるなら昼間でも大丈夫らしい。

フラーメ達はまだ相談してる。
「いやでも、まずいだろ」
「怒られるだろ」
「ラバード様に怒られるだろ」
「これ持って帰ったら絶対ラバード様に怒られるだろ」
「どうしよう」
「どうしよう、どうしよう」
「そうだ、スタージャッジやっつけよう」
「やっつけろ!」
「やっつけろ、スタージャッジ!!」
おいおい!

うーん、フラーメは知能はあるし、学習もするんだけど、命令にはけっこう頑固に従うんだよな。
彼らはスブールの自然種を品種改良した生命だ。地球で言ったら家畜にあたるか。小型種はペットとしている人も多いと聞く。地球人にとっての犬と同じ感覚かな。ラバードは彼らに補助チップを埋め込み、簡単な会話ができるようにして部下として使っている。

そんな生物だから僕にとっての脅威は皆無だ。大変なのはどうしたらあまり傷つけずに静かにさせられるかってこと。成長しても未分化細胞を保持し続ける種なので外傷には比較的強いが、あまり手荒な真似もしたくない。でも長い付き合いの結果、雌は甲羅の中央上部、雄は頸部の甲羅の下端のあたりにピンポイントで打撃を加えると気を失ってくれることがわかってきた。

ということであっというまに15体が地面に転がる。さっき通信機で輸送艇と話してた奴の身体から通信機を取り出して、ONにした。
〈きゃー! スタージャッジが通信してきた−!!!〉
〈もうダメだ−!〉
当然、輸送艇からこっちの様子を見てたはずだ。フラーメ達のわめき声が聞こえる。

「今すぐ重力トレーラービームを降ろせ!」
〈そんなこと言って登ってくる気だなー!!!〉
〈違うって! こいつらを乗せるんだよ! 置いて帰ったらラバードからものすごく怒られるぞ? いいのか?〉
しばらくキャーキャーと騒いでいたが、そのうち船からトレーラービームが降ってくる。僕はビームの範囲内に意識の無いフラーメの身体を手早く放り込んだ。ぐったらぐったらと15個のボディが輸送艇に消えると、輸送艇は一目散に逃げていった。

よしよし。まあラバードはなんのかんの言ってフラーメを大事にしてるから助かる。フラーメも僕のことを怖がってはいるが、無駄にいじめないことはわかってるようだ。
時には作業員を使い捨てにするようなヤツらもいて、数体なら母船に確保して秩序維持省(地球で言う警察にあたる)に回収してもらうんだけど、できない時もあって‥‥。大量の地球外生命の痕跡が残っちゃうとすごくマズイから、仕方ないんだよな‥‥‥。‥‥ああ、ちょっと嫌な記憶が‥‥。忘れとけ。仕事仕事。

うっすらと白み始めた東の空。空が反射するわずかな光を浴びてつやつやした黒い芽がゴミの間からのぞいている。気のせいか、さっきより大きくなってないか? 根を残さないように気をつけて掘り起こした。とにかくえらく堅い。こんな植物あるのかな。

捜索範囲を広げてみたけど回収できた芽は三つ。それを防護ケースに入れる。万が一爆発してもこのケースなら問題ないだろう。これで任務完了。僕は緊急形態(エマージェンシーモード)を解除した。身体を覆っていたサポートアーマーがばらばらの原子になり、殆どが淡い光と共に空気中に散らばる。金属類その他のコア原子は体内にあるエントロピー・リミテイション・スティックに回収された。緊急形態は目立ちすぎるし、何よりエネルギーをやたら消費するんだ。


僕は未接触惑星保護省第二十八局所属スタージャッジ0079。地球人そっくりに作られた強化合成人間(ビメイダー)だ。ちなみに未接触惑星保護省は法に則って星の自然な進化を見守り、保持することを目的に作られた宇宙連合の一部局になる。
世の中には宇宙航行技術を持たない星に乗り込み、進んだ技術で星を侵略して不当に富を得ようという奴らがいまだに多い。そういった者たちから担当惑星を守ることが僕らの使命。もちろん宗教の勧誘や、商品、知識、技術の販売もお断りだ。そういったことには大抵下心があるし、そうでなくても色々とやっかいな問題を引き起こすことは歴史が証明している。

僕は通信機を取り出してスタージャッジ本部にアクセスした。
「こちら0079。出没したのはスブール星ラバード配下のフラーメ15体。植物の種を蒔いていた模様です。もう芽が出てました」
〈植物ですって!? 大問題だわ!〉
ヴォイスの声は地球の女性の声みたいだけど、実際はずっと高い。一般の地球人には聞き取れないだろう。彼女はあちこちの星に派遣されているスタージャッジの管制員だ。あ、僕は地球暮らしが長いから勝手に「彼女」と言ってるけど、じつのところヴォイスが自然人なのか、ビメイダーか、はたまたコンピュータなのかはよく知らない。

「で、回収した芽なんですが、そちらで調べてもらえませんか」
〈了解です。送って下さい。それからエネルギー局から連絡です。遅れていたエネルギーボードは8サトゥルほど前に貴方の居住地点に送付したそうです〉
「え? ゲイザーにじゃなくて?」
〈かなりぎりぎりになってしまったのでそうしてもらいました。船に帰る力も無くなってる可能性もあると思われましたので〉
「そうならない前に送ってくださいよ!」
僕は地球人と同じように食事もできるんだけど、それでこのボディを維持してくのは無理。本部から送られてくる特殊エネルギー「HCE10-9」が無いと活動できない。だけど最近微妙にボードが滞り気味で‥‥。

〈ここのところ未接触惑星を狙った悪質な犯罪者が増えています。各地のスタージャッジは大忙し。お陰でボードの生産が間に合わないのです〉
「そんなこと自慢げに言わないでくださいよ〜」
〈遅れたお詫びにプレゼント仕様にしたと言ってましたよ〉
「余計なことはいいですから!」
こっちはそろそろ船に戻らないとだめか‥‥まで思ってたのに、まったく本部の連中ときたら! 僕のエネルギー残量は、この姿のままで居たとしてもあと1日は持たないとこまできてた。地表で活動停止になってこの身体を地球人に調べられたりしたら一大事。地球にはあり得ない技術が満載だ。皮肉だけど、僕自身もまた地球の自然な進化を妨げる存在なんだ。

ちなみにスタージャッジは担当している星の近くに船を隠している。僕の相棒はグランゲイザー。月の裏にいることが多いが、不穏な状況になると熱圏以上、衛星軌道未満の地球人にとっては中途半端な位置まで降りてくる。

スタージャッジがエネルギー切れ等々で"死"を迎えると、ボディは自動的に母船に対して特殊な信号を送信する。船のドックはその信号を受けて、最新の記憶のバックアップを組み込んだスタージャッジを"復元"するんだ。たとえば僕は半年前にバックアップを取っているから、今もし僕がここで動けなくなったら、しばらくしてから半年前の"僕"がここに降りてくることになる。新しい"僕"の最初の仕事は、古いボディ、つまり今の僕の"死因"の調査と消去。そしてその後しばらくは半年分の記憶の欠落による違和感をかかえて暮らすことになるだろう。僕も過去一度だけ経験がある。まあ、好んでやりたくはないイベントだ。

その時のことを思い出して、少々不活性な状態になってしまった僕には構わず、ヴォイスは他の星の状況を色々と話している。
宇宙にはそれこそ星の数ほどの未接触惑星があるが、それを全部守り切るには人手が足りない。だから一つの星の担当は基本一人だ。長い長い期間、故郷から遠く離れた星を一人で守り続けるのは自然人には不可能だから、スタージャッジは必ずビメイダーが従事する。
それでも貴重な資源があるとか、交通の要所だとか、侵略者に狙われやすい星は一人じゃ対応しきれない場合もある。そういった星には例外的に複数のスタージャッジが赴任するが、彼らの任務は往々にして戦闘続きの危険なものになるのが常だった。

〈貴方は地球みたいに資源も無い、他星系への足掛かりにもなりにくい僻地惑星で良かったですね。だから当分一人で頑張って下さいね♪〉
「はあ‥‥」

ではまた、とヴォイスとの回線が閉じた。周囲は既に夏の朝日で満ちている。芽を入れたケースをぶら下げて廃棄物の山の中を抜けていく。遠くに見える高いビルやマンションの窓がきらきら光を反射して、なんだか僕だけが妙に"重い"まま、取り残されてる感じだ。

僕はふうっと大きな溜息をついた。

ビメイダーの僕が溜息なんておかしいのかもしれない。

でもここ何十年か、溜息をつくことが、とても多くなってきてたんだ。


|2006.07.29 Saturday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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