サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジII〜陽子〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジII 1) 花火の夜
「わーい、すごーい、きれい!」
「うーん、ホントにきれいだね」
「でしょ、でしょぉっ!?」
嬉しいのは花火が素敵だからだけじゃなくて、マゼランが嬉しそうだからです。

あ、あたしは陽子っていいます。陽子・ジョーダン。今日からおじいちゃんとおばあちゃんのお家に遊びに来てるの。パパとマゼランと一緒です。

ミナゾウおじいちゃんとキヨコおばあちゃんは、あたしのママのパパとママ。ママはもうこの世にはいません。あたしが生まれる時に死んじゃったから。おじいちゃんのお家は海のそばで、今夜はちょうど花火大会。日本で暮らし始めたのは半月ほど前からだけど、ここには小さい頃から何度も来たことがあるの。

それで、マゼランというのはあたしのお隣に住んでいる人で、あたしが引っ越してきた時に色々あって‥‥。自分でもよく分からないうちに‥‥その‥‥好きになっちゃった人です。
ひとことで言うと強くて優しくて頼りになるお兄さん。本当になんでも知ってて、でも人のことバカにしたりしないの。それでいて遊園地とか本気で楽しんでるから、見てると可愛いなぁって思っちゃう。一緒にいるとドキドキして、なのにほっとする感じで、とにかくずーっと一緒に居たくて‥‥。これってやっぱりフォール・イン・ラヴ‥‥なのかなぁ‥‥。

ということで今度もさりげなーく誘って見ました! もちろんキヨコおばあちゃんにお許しもらってから。あとでパパは怒ってたけど、男の子を見ると不機嫌になるのはいつものことだし、マゼラン、男の子じゃないし。だいたいパパだってマゼランのことそんなに嫌いじゃないのよ、あたしにはわかるもん。

で、花火って言ったらね、マゼランったら「そういや昔、撃墜されそうになったことあったなぁ」とか言うの。冗談じゃなくてホントね。マゼラン空飛べるから。
内緒だけど、彼、宇宙人なんです。地球を侵略しようとする人たちを追い出すために地球に居るんだって言ってました。仲間の人はいません。マゼラン一人です。どの星の人か聞いたのですが、地球からじゃ見えないくらい遠い星で、あたし達にわかる名前は無いんですって。
でも、あっさりいいよって言ってくれて、嬉しかったです! で、結局マゼランの運転で連れてきてもらっちゃったのですが(汗)、でも彼、花火ゆっくり見るのなんて久しぶりって喜んじゃって。やっぱり可愛いです。

「太堂さんの工房の花火は次だぞ」
パパがパンフレットを見てそう言いました。あたしは漢字は簡単なのしか読めないから、こーゆーのはパパ任せなの。
そして! なんとあたしのおじいちゃん、タイドウ・ミナゾウさん、は花火を作る人なのです! あ、今はもう直接作るのはやってませんが、この花火大会にもおじいちゃんの工場の人達が作った花火が出てるのです。
おじいちゃんの花火はどれも素敵ですけど、やっぱり一発だけの大きなのが好き。最初はただしゅーっていいながら上がってくだけ。もしかして失敗なんじゃないかって心配になるくらい。それがドンっっていって何色ものドーナッツが真ん丸に大きくて広がって‥‥。

「"夢菊――天と地に捧ぐ"‥‥か‥‥」
歓声に交じってパパの呟きが聞こえてきました。
「なあに、それ?」
「今の花火の名前さ」
天って言うのは、やっぱりママに見せたかったからかなー。死んじゃって18年経ったことになるけど、おじいちゃんたちが月子ママのことを忘れる日は無いと思います。パパもだけど。

マゼランがのんびり言いました。
「確かに尺玉花火は上から見てもきれいですから。空からも大地からも楽しめそうだ」
「そうなの? 上から見たら薄っぺらで、つまらないんじゃ‥‥」

あたしだって言いかけてからヘンだと思ったわよ。でもとっさにそーゆー映像が浮かんじゃったんだから仕方ないじゃないの。なのにパパとマゼランったら、同時にがくっとなって同時に顔を上げて、同時に言ったの。
「花火は空に貼ってあるわけじゃないんだぞっっ」
「あれは球なんだってば球!」

えーん、わかってますよ〜〜(滝汗)

 * * *

「おばあちゃん、ただいま!」
「おお、お帰り。綺麗だったかの?」
引き戸を開けたら、お留守番してたキヨコおばあちゃんが出てきました。おばあちゃんは心臓が良くないので、花火大会には行かないんです。
「うん、とっても! おばあちゃんは見られた?」
「2階の窓から見たぞ。夢菊、ちょーっと芯がずれとったか」
「もー、そんなのあたし、わかんないよ! とにかく大きくてきれいでとーっても素敵だったよvv」

おばあちゃんの髪は真っ白で、ちょっとくすんだ赤紫のお洋服(さむ‥‥なんとかっていうの)がとっても似合ってます。このお洋服ね、おじいちゃんとペアルックなんですよ。いいでしょう? おじいちゃんのは明るい紺色で、それもかっこいいんですよ。
あたし、子供の時からおばあちゃんが大好きなんです。とにかく優しくて、いつもにこにこしてるの。とても小さい人なのですが、ゆっくり動いているのにお食事とかお片付けとかあっというまにやっちゃって、魔法使いの小人さんみたい。ママが死んじゃったとき、おばあちゃんはアメリカまで来てくれて、パパが慣れるまであたしの面倒を見てくれたそうです。

「ガードマンさんも、いかがでしたか?」
「はい。素晴らしかったです。楽しませて頂きました」
あらあら、マゼランったらすっかり"ガードマンさん"で定着してしまいました。マゼランが今朝到着した時、おじいちゃんとおばあちゃんに「陽子さんのボディガードです」なんて挨拶したのでこうなってしまいました。まあおじいちゃんがあっさり納得してたんで黙ってましたけど、マゼラン、何考えてそんなこと言ったんでしょうね。

パパがちょっとためらいがちに言いました。
「それで、清子さん、太堂さんは‥‥」
「今日はそれこそ打ち上げで飲んでくるから、遅いじゃろ。気にせんと、先に休んでて下さい」
「はあ‥‥」
キヨコおばあちゃんは優しく笑うと、パパに近寄り、まがった腰をぐっと伸ばしました。
「じいさんのこと、あまり気にしないでやって下さい。あの人はもう本当に頑固だから、いつも貴方には申し訳ないと思っております」
「いえ‥‥」

ミナゾウおじいちゃんはあたしのことは可愛がってくれるのですが、パパには微妙にいじわるです。パパのお願いも聞いてくれません。パパはおじいちゃんの花火を遊園地で使いたいと思ってるんだけど、うんって言ってくれないの。
おじいちゃんは月子ママとパパの結婚に反対で、その上ママが若くして死んじゃったから今でも怒ってるのでしょうか。でもそんな昔のことでずるいわ、おじいちゃん。だいたいママはパパが好きで結婚したんだから、怒るスジアイは無いじゃない?


 * * *

はっと目を覚ましたら、障子の向こうがもう薄明るい‥‥。

あれ。あたし、いつの間に寝ちゃったの? お風呂のあと、おじいちゃん帰ってくるの待ってた気がするけど‥‥。

襖をそーっと開けてみました。隣のお部屋、手前のお布団ではパパがぐっすり眠ってます。その向こうのお布団はもう畳まれてます。マゼラン、起きちゃったんだ。なら、あたしも起きよっと。
そーっと着替えて、そーと階段を降りましたが、もうキッチンではかたかた音がしてます。

「おばあちゃん、おはようございます」
「おや、陽ちゃん、早いの。大丈夫かい。頭痛くないか?」
振り返ったおばあちゃんが、ちょっと心配そうな顔で近寄ってきます。
「え? ぜんぜん平気よ? 昨日あたし途中で寝ちゃったの?」
「ちっとにしとけっていうのに梅酒の梅、あんなに食べるからじゃ。タネが山になっとったぞ」
「‥‥あたし、もしかして、酔っ払って?」
思い出しました。去年おばあちゃんが漬けた梅酒、梅だけ取り出してお酒を他の瓶に詰め替えるお手伝いしてたの。でも梅酒の梅って甘くて美味しいから、つい‥‥。
「最初はかしましいぐらいに学校の話をしてたのに、赤くなるにつれて口数が少なくなって、そのうちパタン・キューじゃ」
あらら‥‥。ママもお酒は飲めたそうだし、パパはお酒強いから、遺伝的には平気とは思うんですが、あたし、お酒を飲むとすぐ眠くなっちゃうの。っていうか、それ以前に法律違反です。今度の九月八日でやっと十八歳だもん。

「しかし、陽ちゃん。あのガードマンさん、実はなかなかの男子じゃの」
「え、あ‥‥、な、なんでっ?」
「礼儀正しくて誠実そうなのはいいとして、なまっちろい優男風だしえらく物静かだし、本当に役に立つのかと思っとったんだが‥‥」
うわー、おばあちゃん、意外にチェック厳しいです‥‥
「眠ったままの陽ちゃんを子供みたいに軽々と二階まで運んじまってな。すごい腕力だの」
そっ、そうだったんだ‥‥。ぜんぜん覚えてないよ。どうしよう‥‥。

「その上酔っぱらったじいさんのことまで片づけてくれたよ。モロさんも相当の腕力だったが、それ以上だの。あれならわたしは文句なしじゃ」
「文句?」
「陽ちゃんの旦那としてさね」
「おっ おばあちゃん! な、なに、いきなりっっ‥‥」
「好きなんじゃろ、あのガードマンさんのこと」
顔がぼーっと熱くなりました。もう、おばあちゃんったら〜〜〜。

おばあちゃんはふぁっふぁっと笑ってます。
「ほれ、朝からリンゴになっとらんと、陽ちゃんも散歩にでも行ってきたらよい。ガードマンさんは、ちょっと歩いてきたいって、少し前に出かけたぞ」


|2006.10.31 Tuesday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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