サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジII〜陽子〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジII 5) 採取
翌日はとってもいいお天気で、あたしはパパに誘われて砂浜に行ってみました。バカンスシーズンの海水浴場だから午前中の早い時間でも人がたくさん。あたし、海で泳ぐのは得意じゃないけど、海で遊ぶのは好きなんです。波とゆらゆらしてるのは面白いし、足の裏がくすぐったいような砂の感触も楽しいし。潮の匂いも好きだし、きれいな貝殻や石を探すのも。
その上、今着てるタンクトップビキニはお店で見た時声あげちゃったぐらいのお気に入りなの。肩のフリルが可愛くて、アンシンメトリーに左のウエストで結ぶ合わせもおしゃれだし。これをビーチで着られるだけでも気分晴れるかなと思ったけど、ぜんぜんだめ。昨夜のマゼランのことばかりが気になります。

マゼラン、2400年も一人ぼっちだったなんて‥‥。
それが普通みたいなこと言ってたけど、地球人の常識を押しつけちゃいけないのかもしれないけど‥‥でも、一人でいるときのマゼランが、あんなに寂しそうに見えるのは‥‥やっぱり寂しいからじゃないの?
もしマゼランがあたしと居るのきらいじゃないなら‥‥あたしが一緒にいたら‥‥だめなのかしら? ‥‥ああ、バカだわ、あたし。そういうこと以前に、マゼランがあたしのそばにいる理由がわからなきゃ‥‥。でもそれがわかったら‥‥魔法が解けて、マゼランがどっか行っちゃったりしない? あたし‥‥どうしたらいいのかしら?

少しだけ浅瀬でぱちゃぱちゃしたり、カニ見たりしながら、思考はぐるぐるしたままで、結局わりに早くパラソルに戻ったら、サングラスかけたパパが待ってました。パパはあたし以上にお日様に弱いんです。肌が本当に白いですから。で、パパのそばには小さなクーラーボックス。そうだ、おばあちゃんのスイカ!

「パパ、スイカ食べよ!」
「そうだな」
お昼までには帰ると言ったら、おばあちゃんがスイカだけ持たせてくれたのです。さすがおばあちゃん。暑い時のスイカほど美味しいものないよね。で、パパがクーラーボックスを開けた時でした。ザワザワと声が聞こえてきて、あたしとパパはパラソルから出て見ました。
堤防の上のあたり、電信柱の2倍ぐらいの高さの空に光る卵形のものが二つ浮かんでるんです。UFOか、ラジコンじゃねえのとか、みんな色んなこと言ってますけど、マゼランが昨日の朝飛んで行った時に、あんなのに乗ってた気が‥‥。

あたしは思わずそっちに向かって走り出しました。光る卵も砂浜のほうに滑って来ます。それが二つともすっと地上に降りて来たと思ったらぼわんと光って卵のカラが消えました。
「な…に、あれ‥‥?」
「映画のロケじゃない?」
「デザイン悪っ」
そこに立ってたのは、大きい、あたしの二倍ぐらいありそうな人が二人。どうみても地球人じゃなくて宇宙人です。ゴツゴツした皮膚。片方は青っぽく、もう片方は緑。足は四本。まるで胴体の短いケンタウルスみたい。手は肩らしいところから二本、胸と背中から一本ずつ。

〈多少小さいだけでよくあるタイプに見えるな。売ってもたいした金にならんだろう〉
〈でもスタージャッジに壊された船の修復にはもう少しかかるんだろう? 何匹か採取してみようや〉
バレッタが言葉を拾いました。これ、もしかしてマゼランの敵!? そのうえ‥‥
「みんな、逃げて! この人達‥‥」

「きゃあああっ」
「うわあっ」
青い宇宙人の手がひゅんと伸びて若い男の人と女の人が捕まりました。あたりは大騒ぎになってみんな堤防の方に逃げて行きます。宇宙人は袋みたいなのにさらった人を詰め込んで背中にかつぎました。

「陽子っ!」
パパがあたしの手を引っ張ります。でもあたしは堤防の上の方に現れたもう一個の光に気を取られてました。お願い、早く、早く!

〈一応、幼生体もとってみるか〉
ヨウセイタイって‥‥? 青い宇宙人がちょっと手を上げた先に、座り込んだ三歳ぐらいの子が泣いてます。

あたしは走りました。でも子供を抱き上げたところで背中に何かが刺さり、悲鳴を上げてその子を放り出してしまいました。あたしの体に青い腕が回り、すごく乱暴に引っ張られた時は頭が‥‥梅酒の梅を食べ過ぎた時みたいにぼうっとなってきて。マゼランの変身した姿を見たように思いましたが、あとは何も‥‥‥‥。



〈‥‥見つからないかな、兄貴?〉
〈これだけ深い海の底だ。それにこの船は自分の出すノイズは全てキャンセルできる〉
〈まああのいかれたスタージャッジ相手なら、来たってなんとでもなるか〉
〈確かにな。スタージャッジの管轄下に無防備で飛び込んだとわかった時はぞっとしたが、まさか担当以外の住人を助けに、わざわざ乗り込んでくるとは思わなかった〉

〈まったくだ。人質をとられて言いなりなるスタージャッジなんて聞いたこともないよな。まあオレは楽しませてもらったぜ、憎らしいスタージャッジをボコボコにしてやれたんだから〉
〈とはいえ油断するなよ、アトロス。あれはどう見てもエネルギーが切れかかってた。時間を稼いでただけなのかもしれん〉

最初は夢うつつでしたがマゼランの仕事上の名前を聞いて頭がはっきりしてきました。

あの二人、きっと昨日マゼランにひどいことをしたのです。それも人質をとって。なんて卑怯な人達なの。それで昨夜のマゼランはあんなに‥‥。別れる時は元気そうでしたが、ホントは怪我してたのかもしれません。エネルギーっていうのはマゼランが持ってるいろんな武器のエネルギーでしょうか。ガソリンを入れたり充電したりすればまた使えるのかな。

とにかくここ出なきゃ。この袋ってば、どうなってるの?

〈おい、動いているぞ〉
〈ああ、幼生体用に薬を少量にしたところに、ジャマに入ってきた奴だろう〉
そんな声がしていきなり袋ごと持ち上げられました。一部が開いて光と一緒に六本指の大きな手が入ってきます。あたしはできるだけ小さくなりましたが逃げられる訳もなく、左肩のあたりをぎゅっと捕まれて袋からひっぱり出されました。

「痛いっ、放してっ」
もがいたら二本の手で持ち直されて、あまり痛くはなくなりました。でも近づいてくるごつごつした顔には赤い三つの目と大きな口があって、あたしは心臓が止まりそうでした。

「放してよっ あなたたち、あたし達をどうする気なの!」
〈言葉のような鳴き方だよ、兄貴〉
〈どっちにしろ翻訳不能だ。まあペットとしてはちょうどいい程度の知能だろ〉
〈ストリギーダ人みたいに標準語をしゃべられても、ちょっと売りにくいよな〉
〈あれは声帯を処置してしまおう。観賞用なら十分だ〉

宇宙人達が顔を向けた方をみると大きな鳥籠があり、中に大きな鳥‥‥じゃなくてたぶん別の宇宙人さんがいます。虹色の羽根をもったフクロウみたいに見えますけどすごくキレイ。このきれいなフクロウさんが人質だったんでしょうか?
改めてあたりを見回しました。大きな倉庫みたいな場所で、動物を入れる檻のような箱がいくつも積んであります。壁の上の方がぼーっと光っているので物は見えます。さっき、海の底とか言ってた気がしますが‥‥

〈それよりその胴体を覆ってるのは皮か? 衣類か?〉
そんな言葉にはっとしたら、あたしの胸元にとんがった爪があたりました。水着を引っかけて引っ張って―――
「や‥‥っ いやあっっ!」
お気に入りの水着がびりびりと破かれて‥‥。手も上げられないあたしは身体を丸めようとしましたが、今度は足首を捕まれて引っ張られました。

〈身体に傷はないようだな。衣類か。しかし騒がしい奴だ〉
〈シンプルな見た目だがまあまあじゃないか、兄貴? それにいい感触だぜ〉
青い奴が四本目の手であたしの身体を撫でたりつねったりします。泣きたくて、でも悔しい気持ちもあって、あたしはぎゅっと唇を噛んで声が出ないようにガマンしました。そしたら横から緑の手が伸びて来て、あたしのあごをぐっと持ち上げました。
〈涙か。しかし怒っているようでもある。表情が豊かで面白いな。意外と高く売れるかもしれんぞ〉

‥‥売るって‥‥あたしを? ‥‥そんなのやだ! やだ、怖いよ、助けて‥‥


〈‥‥おい。船が‥‥揺れていないか?〉
〈海流が変わったんじゃないの?〉
二人の宇宙人があたりを見回しました。緑の方があたしから手を離し、ちょっと離れて床をどんと踏みます。床から円筒形の柱がにゅっと出て来てきました。緑の宇宙人が柱の表面を触ると丸い表面に何か模様が浮かびました。
〈浮上してる〉
〈なんでだ!?〉
〈自動修復で何かあったんだろう。とにかくその生物をパックに戻せ〉
青いのがあたしを持ち上げて袋に目をやった瞬間、目の前を何かがぎゅんと通過して、あたしは落下しました。でも床に落ちる寸前に抱きとめられて。またそっと床に降された時、初めて誰がいるのかわかりました。

「あ‥‥。マ‥‥」
「遅くなってごめんよ」
マゼランが上着を脱いであたしにかけてくれてます。涙だけぽろぽろとこぼれますが、声がうまく出ません。
「‥‥怖か‥‥た‥‥」
マゼランがちょっとだけあたしを抱き寄せて、肩をやさしく叩いてくれました。
「大丈夫だから」
少しほっとして、そしてやっと、ぎーっていう悲鳴みたいな声が響いていたのに気づきました。見ると青い宇宙人が手を2本切られてものすごく怒ってます。緑のが驚いたように叫びました。
〈スタージャッジ! なぜここが‥‥〉

あっと思った時、マゼランはもう白いグライダーにぶら下がって青い宇宙人の直前まで飛び込んでました。
「IDカノン!」
日本の鐘つきみたいに白い大砲を青い宇宙人の胴体にぶつけるように押しつけたマゼランがぐっと踏ん張ります。
「ファイアっ」

〈アトロスッ!!〉
ものすごい叫び声を残して、青い宇宙人の上半分がふっとびました。赤い血をまき散らして倒れた宇宙人の下半身は首から抉られた馬のようで、あたしは思わずぎゅっと目をつむり顔を背けてしまいました。
〈貴様! いきなりっ!〉
〈昨日言ったはずだ。プランドゥにアトロス。秩序維持省の特A級凶悪指名手配犯ポーチャー・コンビ。お前達には無条件デリートの指示が来ている。ここは未接触惑星だ。スタージャッジは秩序維持省の権限を持って処分を執行する!〉
既にあたしの脇まで戻っていたマゼランの顔はとても厳しく、凍ったように表情が無くて‥‥。いつも優しいマゼランとはまるで別人でした。
〈この‥‥!〉
〈未接触惑星含めあちこちの星から住民をさらい、ブラックマーケットで売りさばいたお前達を許さない! クラッディング!〉

|2007.02.18 Sunday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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