サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジII〜陽子〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジII 6) 大好きだから
マゼランがふわっと金色に光ったかと思うと、青い姿に変身しました。あ、厳密には戦闘服を着ているのであって、変身じゃないと言ってましたが。
まず目に飛び込んでくるのは明るいブルーのマント。大きな襟付で胸元とウエストで白い部品で留めてあるから、袖無しの長いコートのようにも見えます。大きな肩当ても鮮やかな赤でよく目立つ。頭部は真っ白なフルフェイスのヘルメットと銀のゴーグルが一体化したようなもので覆われ、その側面にも赤いラインが入っています。眉間の部分が少し高くなって光っていて、その突起から頭頂にかけて赤いマフラーみたいな布が長くなびいてる。昔の鎧の絵でみる羽根飾りのようでかっこいいのですが、これ、広がったり曲がったり動いているから、飾りじゃ無い可能性大です。
マントの中は濃紺のボディスーツを着ているようですが、脚とか腕とか殆どの部分が光沢のある白とブルーのカバーで覆われてます。すごく丈夫そう。そのうえ前腕の外側には小ぶりの盾みたいなものもついてて‥‥いや、頑丈はいいですけど、あの服、全部で何キロあるんでしょうか!!

マゼランの手に短い棒のようなものが握られています。伸びてきた緑の腕をかいくぐりざま、その短い棒を突き出すと、目が焼けそうなくらいの青白い光が一瞬だけ走り、緑の腕が途中までさくりと切れました。
〈くそ! やはり昨日はエネルギー不足だっただけか!〉
緑の宇宙人が落ちそうになったお腹側の腕を別の手で掴んで、怒鳴ります。
〈その通り。充分エネルギーのある今、お前達に勝ち目はない。大人しく降伏するなら即時デリートは勘弁してやる〉

緑の宇宙人はぶらんとした腕を自分でちぎりとり、放り投げました。血まみれでまだひくひくしている腕があたしのそばの床に落ちて、思わず叫びそうになりましたが、だめです。怖くても、声あげちゃだめ。マゼランの邪魔になる。緑の宇宙人は声も上げず、赤い三つの目でマゼランを睨み付けました。
〈ビメイダーごときが、自然人に対してそんな口を叩けると思うなよ!〉

緑の宇宙人がどこから出したのか何か槍のような物を引っ張りだして構えます。マゼランが右手で左の肩当てに触れると、赤い肩宛てがくるくるとほどけて、ぜんまいばねとリボンの中間のようなものに変わりました。それを鞭のようにぱしっと打ち鳴らし、マゼランは緑の巨体にだっと飛び込んでいきました。
身体の大きさの差も重い鎧もものともせず、マゼランは素早く回り込んでは緑の宇宙人を叩きのめしています。こんなに強いならもう大丈夫。さっきエネルギーも補給できたって言ってたし、武器も使えてたし、相手も一人です。あたしはどうしたら‥‥。そうだ。一緒にさらわれた人達は‥‥?

あたりを見回すといつのまにか部屋の隅っこまで運ばれてたことがわかりました。すぐそばに二つの袋。海岸で袋に入れられちゃったカップルです。ちょっと押してみたけど全然動きません。さっきのあたしみたいに寝てるだけだといいんですが‥‥。顔を上げたら例のフクロウさんの鳥籠が床に置かれてました。マゼランったらいつの間に? とにかくこの人を助けなきゃ。あたしはカゴに近づいてみました。

フクロウさんは背の高さは人間ぐらいだけど、あたしの倍以上太くて丸っこい人でした。よくみるとクチバシから羽根まで透明なバンドのようなのでぐるぐる巻きになっています。丸い四つの目が悲しそうにあたしを見ていました。マゼランの上着のポケットを探ってみました。ナイフ見っけ。この前植木に絡まった犬の引き綱を切ってくれたやつ。あたしの腕なら鳥籠の棒の間から入るので、フクロウさんに向かって手招きしてみました。
フクロウさんはちょっと目を丸くしましたが、すぐ近寄ってきました。頭を下げあたしに向かってクチバシを差し出してきます。賢い。あ、こんな姿ですが宇宙標準語をしゃべるそうだし、あたし達より頭いいのね、きっと。あたしはクチバシを巻いてるテープをそっと切りました。

〈ありがとう。身体のほうも切ってくれるか〉
「うん。じっとしててね」
身体の方にテープに手をかけると彼(かどうかはわからないけど)が言いました。
〈ん? 私はシリウス星圏語しかわからないんだ。できたらそれで話してもらえないか〉
あたしは困ってしまい、唇にに指をあてて首を振ってみました。
〈ああ、聞き取れるが話せないのか? 勉強中なんだな。私も昔はそうだった〉
ぜんぜん違いますが、あたしはうんうんとうなずいて、ベルトを切り始めました。ナイフの切れ味がとてもよくて、わりとすぐにフクロウさんを自由にできました。

でもこの籠からどうやって出してあげたらいいんでしょう。籠の周囲を回ってみましたが出入り口が無い。
〈やつらが触らないと開かないようになってるんだ〉
あたしは頭にきて力任せにゆすってみましたが、どうなるわけもありません。

「陽子、籠から離れて!」
マゼランの叫び声がして、言われた通りにしました。マゼランが今度は変わった声を上げます。英語でも日本語でもないしバレッタもなんにも言わない。でもフクロウさんが床に小さくなったので、この人たちの言葉なんだと思います。そのとたんマゼランのグライダーが飛んできて籠の上部を薙ぎ切りました。籠がばたんと倒れ、あたしは中からフクロウさんが出るのを手伝ってあげました。

〈助かった。君はスタージャッジのアシスタントなの?〉
フクロウさんがそう言います。あたしはちょっと悩んでから首を横に振りました。Yesと言えたらどんなにいいでしょう。でも、あたしはマゼランのことを知らなさすぎる。ほんとに、なんにも知らなくて‥‥。
〈違うのか。この星の住人?〉
今度はYes。その通りです。

〈そうか。君たちは素晴らしいスタージャッジに守られてるんだな〉
「え?」
〈私の生まれた頃、私の星はもう連盟に加盟していたからスタージャッジのことは話に聞くだけだった。命令に忠実で担当する星を守るためには多少の犠牲はものともしない。長期に渡ってその星を外敵から保全し続ける頑固な管理人‥‥。それがよその星の住人である私を助けるために乗り込んできてくれるなど思いもしなかった。私を傷つけまいとあんな目に遭ったのに、なおまた来てくれるなんて‥‥〉

あたしは胸が一杯になりました。そしてさっきちょっとでもマゼランを怖いと思った自分が恥ずかしくなりました。マゼランはたぶん命令に違反してこのフクロウさんを助けようとしたんです。そして今も必死で‥‥。

ずっと必死で‥‥。ずっと独りで‥‥。2400年もの間‥‥


「だあっ!」
気合いの入った声がして、緑の巨体の背中に後ろ向きにのって、頭上から手を伸ばして相手の首を掴んだマゼランが、巨体を思い切り放り投げて壁に叩きつけます。
「IDカノン!」
片手を高く掲げたマゼランめがけて白いグライダーが舞い降りる。これで終わり。これでマゼランの勝‥‥

だんっという蹄の音。
「な‥‥っ!?」
マゼランの身体めがけていきなり青い四つ足が飛びかかりました。さっき‥‥さっき倒したヤツ‥‥、なんで!?
〈我々の修復力を甘く見るな! アトロス、そいつを逃がすな!〉

青い胴体だけの巨大な馬が、太い足でマゼランを床に押さえ込みます。
「あ、ID…スライサー!」
〈やらせるか!〉
緑の奴がグライダーを捕まえ、片羽根を折ってしまって‥‥

〈逃げるぞ!〉
フクロウさんの声ではっとしました。あの緑の宇宙人がこっちに来ます! 後ろの片足を引きずってるけど、大股で速い!
「待って、お願い!」
あたしは男の人と女の人が入ってる二つの袋を必死に引っ張りました。この人たちが掴まったらマゼランはまた‥‥。でも重い。動かない‥‥っ
〈まかせろ。君は背中に乗れ、早く!〉
ばっと羽根を広げたフクロウさんのお腹から触手がでてます! 彼がお腹に袋を二つ抱え、あたしは言われた通りに背中に乗りました。フクロウさんはすぐ飛び上がりましたが、なかなか高くあがれません。
〈お、重い!〉

〈待てぇ!〉
恐ろしい声と共に、フクロウさんががくんと引っ張られる感じがして、そのあと急に軽くなりました。積まれた檻の上をめがけて上昇しながら振り返ったあたしは、人が入っている袋を一つ掴み取っている緑の宇宙人の姿に、息が止まりました。

〈スタージャッジ! これを見ろ!〉
緑の宇宙人が大声で怒鳴ります。青い身体をなんとか押しのけたマゼランが動きを止めます。
〈わかってるな。この中にはこの星の原住民が入ってる。潰して欲しいか!?〉
〈やめろ!〉
〈なら動くんじゃない。アトロス。やってしまえ!〉
〈ぶっ飛ばしてくれた礼をたっぷりとしてやるぜ!〉

驚いたことに青い胴体の上部にラクダのコブみたいにもこりと頭部が生えかかっています。まるで悪夢。それがマゼランを思いきり蹴飛ばしました。倒れたマゼランを太い前足で何度も踏みます。マゼランは手足の鎧でガードしようとしますが、青い宇宙人は2本の前足でめちゃくちゃに蹴りつけて、ガードを蹴散らしてしまいます。
〈後悔させてやる! この出来損ないのビメイダーが!〉

世界が凍ったように感じました。一切抵抗しないマゼランの身体が、壊れた人形のように宙を舞い、何度も踏まれて‥‥。何度も何度も‥‥。

やめて‥‥。やめて、やめて! マゼランが死んじゃう! 死んじゃうよ!

あたしはマゼランの所に行こうとしますが、フクロウがあたしを捕まえます。
「離して! 離しなさい!」
〈静かにして! 彼が君に何か言ってる!〉
痛いほどに揺すぶられて、やっとあたしを呼ぶマゼランの声に気づきました。

「陽‥‥子。落ち着け…」
壊れた床の中からゆらりと立ち上がったマゼランのマントが消えています。腕の盾の部分も。よろめく彼の銀のゴーグルがあたしを見上げ、とぎれとぎれの日本語が聞こえてきました。
「大丈夫だ‥‥。そこに‥‥いろ。すぐ、終わる‥‥」
〈何をごちゃごちゃと!〉
蹴りこまれた足を受けても、それを押しとどめる力がマゼランにはありません。でも何をされてもマゼランは立ち上がって来る。それが青い宇宙人には頭に来るようでエスカレートして‥‥。もういい。マゼラン、もういいよ‥‥!

もう何回目か、壁に叩きつけられたマゼランの身体が一瞬ぼわっと広がったように見えました。あっと思ったらそこに居たのはいつものマゼラン。‥‥なんで‥‥。その姿じゃ、本当に死んじゃう!

〈サポートアーマーが維持できなくなったなったか。エネルギーが尽きたようだな〉
壁で身体を支えながら立ち上がったマゼランは肩で息をしながら言いました。
〈だけど‥‥まだこうして‥‥ぴんぴんしてるよ‥‥。ぼろぼろのお前らとは‥‥えらい違いだ〉
〈そんな状態で、まだ強がりか〉
〈名の売れたポーチャー・コンビも‥‥たいしたこと無いって‥‥言いたいだけさ〉
〈なんだと!〉
〈アトロス、どけ。あとは私がやってやる。手足を全部もぎとって、まだそんなことが言えるか、試してやる〉

今まであまり手を出さす、背中側の手で袋を持って見ていた緑のが足を引きずりながら踏み出しました。それがマゼランに両手を伸ばした瞬間、マゼランがぐんと跳ね飛びます。緑の宇宙人の頭上を飛び越え、人質の袋を奪い取りました。それをあたし達のいる場所めがけて投げ上げる! フクロウさんが飛び出して空中キャッチしてくれました。

「IDカノン!」
床に落とされていたグライダーががたごととなんとか変形しました。マゼランはそこまで走ると大砲を真上に向けます。
「全弾装填! ファイアっ!」
立て続けに大きな発射音がして、天井に大きな穴が空きました。そこから青空が‥‥。いつの間にか海上まで出ていたんです。マゼランがフクロウさんの言葉で何か叫びました。フクロウさんがお腹の触手で袋を二つ抱えました。
〈警察のシップが来るそうだ。背中に乗って!〉

でもあたしはそんな言葉聞いてませんでした。マゼランがぐらりと崩れて、そのまま座り込んでしまったんです。完全に力を使い果たしたように‥‥。身体を起しているのさえ辛そうなその様子は、昨夜のマゼランとそっくりでした。

『エネルギーが尽きたようだな』って緑の宇宙人の言葉が蘇りました。エネルギーって‥‥まさか、武器のエネルギーじゃなくて、マゼランのエネルギー? 無くなると変身できなくなって、マゼランも動けなくなっちゃうような‥‥。

でも昨夜は‥‥? 会った時は確かに疲れてたけど、別れる時は元気そうで、すごいスピードで砂浜を駆け上がって行って‥‥。


昨夜のマゼランの様子を必死で思い出します。

(君の所に行かなきゃならなかったのに‥‥)

あんなにいきなり‥‥ちょっと乱暴なくらいの‥‥キスするなんて、マゼランらしくなかったのは確かで‥‥。

(君に付きまとうのは確かに理由がある)

ラバードさんの時も‥‥変身したのはキスのあとだった‥‥‥

(君と会えたから、もう大丈夫)

あたしは自分の唇に手を触れました。

‥‥あたし‥‥‥‥



緑の宇宙人がマゼランのすぐ前まで近づいていました。マゼランがそれを見上げ、口の端だけで笑いました。
〈お前達は‥‥もう逃げられない。船は飛ばない。‥‥浮上させる時に細工したんだ‥‥〉
〈スタージャッジ、貴様‥‥。いい覚悟だな‥‥〉
〈ああ。僕の身体は‥‥くれてやる。好きにしろ。‥‥だが4人は警察に‥‥〉

「いやよ! そんなの絶対いや!」
檻の棒を滑りおりた手がひりひりと熱い。でもあたしの身体はもっと熱くて、まるで蒸気になったよう。

「‥‥よ、陽子、ばか! くるな!」
「バカじゃないもん。怖くもない!」

お願い、あたしの考え、当たってて!

あたしは空を飛ぶように走ってマゼランの腕の中に飛び込みました。
まん丸な目をしたマゼランの頬を両手で包んで、そっと唇を近づけます。

大好きな人に生きていてほしい。ただ一つの願いを全身全霊で祈りながら‥‥。

|2007.02.18 Sunday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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