サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジII〜陽子〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジII 7) 事件解決
〈原住民と一緒なら本望だろう!〉

雷がすぐ後ろにいるみたいな感じがしました。ほんとはちょっと怖かった。でもマゼランがあたしを抱きしめたままだったから、あたしは彼のシャツをぎゅっと掴んでその胸に顔を埋めていました。

だんと床を蹴る音。マゼランの片手が上がって、つられて顔を上げたら、宇宙人の蹄をマゼランの手が受け止めてました。それをえいっと放り出すとあたしを抱えたまま後ろにひと跳び。
「ちょっとだけ待ってて」
とんとおろされたあたしは一応頷いてますけど、はっきり言って悲鳴を上げないでいるだけで精一杯です。

「クラッディング!」
マゼランの回りにまたあの鎧が現れます。
「IDスライサー!」
白い大砲が不自由そうに片羽根をのばします。マゼランはその胴体のどこかをひっつかんで、刃になっている羽根を緑の宇宙人に振り下ろしました。四つ足の宇宙人が叫び声をあげてうずくまります。
〈この死に損ないが!〉
青いのがこっちに向かって来た、と思ったら、あたしはもうマゼランに抱えられてフクロウさんの近くまで飛び上がってました。マゼランは上を見てる。天井にドカンとあいた大穴から、真っ青な夏の空がまぶしすぎなくらいキラキラしてました。

〈ああ。やっと来てくれた〉
なにが来たのと聞こうとしたら、空にいきなりぽかっと黒い穴が開いて何かが二つ落ちて来ました。きっとまた別の宇宙人さんですね。格好は人間ぽいけど宇宙服を着てるのかな。よくわかんない。どっちにしろこんなに背の高い地球人なんてあり得ないわ。

〈私はシリウス星系秩序維持省第3管区所属 認識番号357だ。プランドゥにアトロス。捕獲する〉
〈ま、待て。何を証拠に‥‥〉
〈特A級凶悪指名手配犯のおまえたちに反論の権利はない〉

後から来た宇宙人さん――多分刑事さん――が何かを投げました。逃げようとした二人の上に大きな輪っか一つずつ広がると、それが下に向かってスライドします。彼らはそれぞれが筒に入ったようになりました。次の瞬間、中がぴかっと光ったと思うと、もう彼らの姿は消えてます。どうなったのか聞きたくて振り返ったらマゼランはもういつものマゼランに戻ってました。
「あの人達、どうなったの? 死んじゃったの?」
「いや電送されたんだ。生体にはかなりきついんだけどね」

〈スタージャッジ0079かい?〉
あたし達の高さまで浮き上がってた刑事さんがマゼランに向かってそう言いました。
〈はい〉
〈"森で一番大きな木に住む朝焼けの光の羽根"さん。ご無事で何よりです。シップにどうぞ〉
もう片方の刑事さんがフクロウさんに手を伸ばします。フクロウさん、素敵な名前ね。

〈ちょっと待って下さい〉
フクロウさんがそう言うとマゼランに近寄り、身をかがめてマゼランの胸のあたりにクチバシを押しつけるようにしました。
〈どうもありがとう。地球のスタージャッジ。あなたのお陰で命拾いしました〉
〈こちらこそ。色々手伝ってくれてありがとう〉
唇とか血が出てたけどマゼランの顔はとっても嬉しそうで、あたしは幸せな気持ちになりました。すごく苦しんだけど報われて良かった。一歩間違ったら死んじゃいそうだったんだから、そんな言い方気楽すぎるかもしれないけど、今のマゼランを見てたらそう思えるの。

フクロウさんは今度はあたしにすりすりしてきました。
〈もし宇宙に出る時代になったら遊びにきてね、可愛い人〉
「もう悪い人に捕まらないでね」
あたしが生きてる間に宇宙旅行なんて絶対無理そう。もう二度と会えないと思うけど、貴方の背中に乗せてもらったこと一生忘れないわ、"光の羽根"さん。
フクロウさんは片方の刑事さんに連れられて空に上がって行きました。空にまた黒い丸が現れてその中に消えていきます。いったいどうなってるのかな。

〈よかった。この人も眠ってるだけだ〉
見たらマゼランが例の袋の中から捕まった人を助け出してました。若い男の人と女の人。マゼランが美人のおねーさんを覗き込んで、唇や首筋に触れてるの見てると、ちょっと‥‥その‥‥複雑な気分です(汗)

〈ああ。連中は最初は殺さないんだ。大事な商品だからね。ただ生体より剥製やパーツの方が実入りがいいとなると、生きたまま解剖するような実にむごたらしいことをする。その人たちが無事で良かったよ〉

あたしの顔色、たぶん変わってたと思います。身体を触られた時の感覚が蘇って気分が悪くなり、口を覆って座り込みそうになりました。気づいたマゼランがすぐにそばに来て支えてくれました。
「大丈夫?」
「う、うん‥‥。ちょっと‥‥思い出して‥‥」

〈その被害者は途中で起きてしまったのか。記憶を消さないと‥‥〉
刑事さんが大きな手を伸ばしてきて、あたしはまた怖くなりました。でもマゼランがあたしをぎゅっと抱き寄せると言ってくれました。
〈この子のことは、私が〉

〈そうだな。任せよう。しかし君もずいぶん無茶をする。スタージャッジ本部はシップごと消滅させると言っていたぞ〉
〈確認したら想定外の生体波があって、もしかしてと思ったんです〉
〈君がもっと早く彼らを消滅させていたら地球人たちの安全は守られたろう。人質のおかげで初動が遅れて彼らを取り逃がした我々と同じ過ちをスタージャッジの君が―――ビメイダーである君が冒すとは〉

「同じ過ちじゃないよ。同じ優しさだよ!」
「陽子。だめだよ」
「だって!」
あたしは思わず叫んでました。確かにあたし、怖かったけど、でもマゼランは命令違反してもあのフクロウさんを助けたかったの。それはとっても優しい気持ちだったの。

〈ど、どうしたんだ、急に?〉
〈あ、いや、その‥‥〉
〈そうか。気が高ぶっていて当然だな。早く帰してあげないと。スタージャッジ0079。批判めいたことは言ったが我々は君にとても感謝してる。人質になっていた"光の羽根"は子供が生まれたばっかりだったんだ〉
〈そうだったんですか〉
〈とにかくありがとう。スタージャッジ本部にもこの気持ちを伝えるよ〉
〈光栄です〉

宇宙人の刑事さんが掌を上向きにして、マゼランの前に手を出しました。マゼランは驚いた顔をして刑事さんのヘルメットを見ます。刑事さんが促すように掌を揺らしたので、マゼランは相手の手の上に自分の手を重ねました。握手なんでしょうか。差し出された大きな掌に乗ったマゼランの手は小さな王子様の手みたいに可愛くて、あたしは思わず微笑んでしまいました。


 * * *

目が覚めたら一人でした。部屋には小さな灯り。明かり取りの窓も暗い。時計を見るともう7時でした。

刑事さんの船で陸地まで送ってもらって帰りついたのは午後3時頃だったんです。あ、刑事さんの船は上から当たってる光と同じ光を反対側から発するようになっていて、人の目に見えにくい仕組みになってたんですって。黒い穴と思ったのが出入り口だったの。中は暗くて、あたしにはほとんど何も見えませんでしたが。

あたしと一緒にさらわれた二人はマゼランが人目に付かないように海岸脇の林に運びました。マゼランが小さな装置を彼らの頭にあてて、刑事さんからもらった解毒剤を注射しました。あとは陰で見ていたのですが、目覚めた二人は何も覚えてなくて、海で遊んでたはずなのになんで林の中にいるのか、不思議がりながら帰っていきました。

パパの話によると海岸であたし達がさらわれた直後、マゼランがガスを撒いて、そのせいで何が起こったのかを正確に言える人はいなかったそうです。パパはマゼランに庇われたから大丈夫だったのですが、もちろん知らんフリをしてたんです。とはいえ海岸に怖い化け物が現れたという噂は消し去ることはできず、けっこう騒ぎになっちゃったみたいです。

パニック起こした人波に流されて足を捻って帰るのが遅くなったって、あたしの説明をおばあちゃんもおじいちゃんも普通に信じてくれました。さすがに水着破られちゃったのはなんとかごまかしました。マゼランの上着の下がハダカだってばれたら、別の意味で大変なことになってた気がします。特にパパ。
だからとにかくシャワー浴びたいって、バスに入ったのですがお湯に浸かったらすごく眠くなってきて、上がってすぐ寝ちゃったの。気づいたらこんな時間。

「陽ちゃん! 大丈夫か?」
下に降りたら、おばあちゃんが心配そうに近寄ってきました。
「うん。たくさん寝たからすっきりしちゃった」
「そうかそうか。良かった良かった。すぐごはんの支度しよう」
「あ‥‥。まだあんまり食べたい感じじゃないの‥‥」
「そうか。怖い目におうたからの。じゃあちょっとだけ」


|2007.04.01 Sunday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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