サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジIII〜マゼラン〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジIII 2)ビメイダー
意識の無いラバードと共に、僕は遊びに来ていた島の山中に着地した。キャンプ場以外での野営は禁止だから、夜の森は真っ暗でまったく人気が無い。ラバードを横たえてみると、腹部から背中のかなり広い範囲にコロイドシートがべったりと貼ってあった。どうもかなりのダメージを受けたらしい。

ビメイダーの身体は頭脳および制御系からなるコア・システムと、筐体と駆動システムを兼ねるボディ部に分けられる。強化細胞タイプのボディなら損傷しても単体独力で修復可能だし、それに要する時間も一般的な自然人に比べて速い。全身に配置されている未分化細胞のおかげだ。ちなみにコア・システムの修復は自分専用のドック(製造カプセル)に戻らないと無理だ。僕のドックはもちろんグランゲイザーにある。ラバードが4サトゥル――約5時間――で修復できると言ったのは、コアには致命的な損傷がないことが判ってるからだ。

本部とは既に連絡を取った。スタージャッジの破壊に頻繁に関わっているSJキラーとして知名度があるヤツは5名ほどいるが、それが地球圏に入ったという情報は無いそうだ。だいたいビメイダーは記憶のバックアップさえあれば生き返れる。ボディを再度構築して、そこに記憶を移せばいい。特にスタージャッジは職務上短いタイムスパンでバックアップを取るし、本部にも転送された記憶データとそれぞれのドックがある。だから本気で「消す」のはほとんど無理。それにそもそも地球みたいに売りが少ない僻地惑星の担当者を狙っても見合うようなことはあまり無い。

僕は陽子に連絡をとるとラバードを担ぎ上げてバンガローに向かった。
陽子のそばにいた方がいい。ラバードの話によっては陽子をグランゲイザーに連れて行こう。陽子のエネルギーのことを知ってる者はいないはずだけど、僕より陽子に危機が迫ってると考えた方が今は自然な気がする。幸い僕らのバンガローはキャンプ場の一番はずれのほとんど山の中だ。センサーの感度を上げてサーチしつつ、ラバードを大急ぎでバンガローに運び込んだ。

「こっちよ」
陽子が示した部屋の隅には借りたマット二枚が縦に並べて敷いてある。陽子にとってラバードは「髪の長い背の高いおばさん」で、だからこうしてくれたんだろう。
「ありがとう」
ラバードに向けられた陽子の優しさが嬉しい。僕はラバードを横たえ、でも一枚のマットは外した。これからのことを考えると陽子にはきちんと眠っておいてもらいたい。

陽子が毛布を広げてラバードに掛けてくれる。
「おばさん、大丈夫なの?」
「大丈夫。少し休めば治るよ。それより君も休んだ方がいい」
僕はもう一枚のマットと毛布をラバードから少し離れた処に敷き直すと、陽子をそちらに促した。

陽子は大人しく毛布にくるまった。普段は物怖じせずに「こうしたい」とはっきり言う子だが、僕の仕事が絡んでくると素直に言うとおりにしてくれる。人一倍好奇心旺盛なのにあれこれ聞いてこないのは、僕を困らせまいとしてるからなんだろう。陽子のそういった点にも僕はすごく感謝してた。

「マゼランは寝ないの?」
陽子の枕元とラバードとの間に座り込んだ僕を見上げて、陽子がそう言う。
「ああ。おばさんが夜中に起きて勝手に暴れたら困るだろ?」
陽子がくすくすと笑った。
「このキャンプ場、夜は騒いじゃいけないのよ。キャンプ・ファイヤーもダメなの。だから静かにしてね」
「そうだったね。治ったらすぐ帰らせるよ」
「その時は起こしてね。包帯のお礼言いたいの」
「わかった」

陽子の声は眠そうになってきた。今日はかなり山歩きをしたからね。でもラバードが傍にいて気にならないとは、ある意味剛胆だ。
「‥‥でもマゼランもちゃんと寝ないと‥‥。おばさん、きっと暴れないよ‥‥」
「そうだね。もう少ししたら僕も寝るから。安心してお休み」
陽子の髪をそっと撫でると、陽子の両手が僕の手を挟むように捉えた。ちょっとほおずりして、そのまま目を閉じる。小さな柔らかい掌から、規則正しいゆったりした息づかいが伝わってくる。

ビメイダーは毎日寝る必要はない。もちろん休息時間としての睡眠は必要だし、その時はセルフチェックや情報の再整理も行われる。でも一週間程度連続して稼働していても別段問題は無い。たとえ睡眠時でもセンサーに何かがひっかかれば即割り込みが入り、一気に正常の活動レベルに復帰できる。

スタージャッジは全てビメイダーで、だから僕がビメイダーであることは自明だ。だけど陽子はそれを知らない。というか「ビメイダー」がどういうものなのか、陽子には説明してない。ビメイダーの電子頭脳の基本判断セットは、作られるビメイダー毎に対話によって個別に作られるので、ロボットのように同じものをいくつも作ることはできない。つまり地球にはビメイダーに相当する存在は無いわけで、説明のしようが‥‥。

――いや、説明しようと思えばいくらでもできるのだろう‥‥。‥‥ただ‥‥僕が作り物であることを知ったら‥‥陽子はどんな反応を示すのか‥‥。

ビメイダーと自由人の最大の違いは、まず僕らが作られた存在であること。そして誰かの所有物だってことだ。たとえば僕の所有権は未接触惑星保護省にある。
僕はこの姿で作られて、少しの学習の後、すぐに地球に来た。宇宙に戻るのはごくたまに本部に戻ってオーバーホールしたり状況報告をする時ぐらい。だから世の中の自由人がビメイダーとどう付き合っているのか、実はあまり知らない。ただ僕が地球から追い出した違反者の多くは、僕が「ビメイダーである」という理由で侮蔑の物言いをする者も多かった。まあ実際のとこ、僕は保護省の「装備」みたいなものだから、それに捕まるのも腹立たしいのだろう。だからこの前のシリウス星系の維持省の役人のように、あんな敬意をいきなり払われると、ちょっと驚いてしまう。

実は被所有が解除されて自由人と同等の権利を得ているビメイダーも存在するそうだ。ビメイダーだからもちろん自然人じゃないけど、でも自由人‥‥ってことになるのかな? どうするとそうなれるのか、僕は知らない。自由人って言葉は魅力的だが、だからって自分が自由人になると言われてもピンと来ないしね。まあとにかく、僕にとっては、おおむね自由人=自然人なんだ。

前任者の0024が地球の担当者として作られたのはずっと昔で、どの種が地球の代表になるのかは不明だった。だから彼は僕よりもっと一般的な体型で、身長も2mを遙かに超している。でも僕が作られた頃は既に人類の文明が定着していたから、僕は0024が収集したホモ・サピエンスのデータに合わせて作られた。細胞は酸化還元作用でエネルギーを作り出すことが可能だし、人工細胞を保つ循環液も血液と同じ様に見える。僕が地表で地球人に混じって生活し、陽子と並んで歩いていても、気にとめる人は誰もいない。

それでも僕は陽子とはあまりに異質な存在なんだ。


|2008.05.05 Monday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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