サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジIII〜マゼラン〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジIII 4)出現
ラバードがまた真剣な顔になった。
「わたしの直感だが、あいつは地球じゃなくてお前個人が狙いのような気がする。何を言ってくる気か知らないが、どちらにしろかなりヤバイ奴だ。カミオでは私の友達の一人が生死の境にいるらしい」
「わかった。今まで僕が関わった犯罪者についても調べてもらうよ。どっちにしろ本部には全部報告しなきゃいけない。あんたのことも事実をありのままに伝えたいけど、いいかな?」
「好きにしろ」
僕は軽く頷くと本部に連絡を取り、ざっと顛末を伝えた。

〈まさかカミオの件がこちらに関係するとは思いませんでした〉
ヴォイスはありとあらゆる言語を知っている。僕に合わせてしっかりスブール語で返してきた。
〈スタージャッジに買収が持ちかけられるケースは確かにありますが、それに対して隊員が乗ったこともなければ、重犯罪に至ったケースもありません。そもそも地球のような星の担当者がその対象になるのは考えにくいですね〉
「地球について何か重要な新発見があったとか、そういったことは?」
〈今のところそういった報告はありません。それから犯罪者の方はサーチ結果が出ました。ここ200年ほどで貴方が刑務所に送ったのは五件、十二人ですが彼らがカミオに行った記録は無い。所在も判明しています。一番問題のポーチャーコンビも現在厳重に拘束されています〉

「マリスがラバードの船からどこに飛んだのか、判りませんか?」
〈太陽系に一番近いリープ・ゲートを利用した伝送信号は秩序維持省が分析中です。ラバード氏の船に飛んだ記録は見つかったようですが、戻りはまだです〉
電送は空間波を使う。リープ・ゲートを使う空間波にはこういった音声通信も含まれているから時間がかかるだろう。

〈たぶん秩序維持省はラバード氏の事情聴取をしたがるでしょう。スタージャッジ本部とはいざこざはありますが、過去、犯罪申告をされたことは無いので特に問題は無いと思いますが〉
「ラバード、維持省が‥‥」
「聞こえてる。あまり会いたい連中じゃないがマリスは許せん。私は脱出艇に戻ってからカミオに行く。そこでイヤでも会えるだろう」

「ラバードはこれからカミオに行くそうです」
〈わかりました。貴方もグランゲイザーで待機した方がいいでしょう。状況の変化により迅速に対応できます〉
「そうですね」

グランゲイザーに戻るなら陽子も連れて行くべきなのか。僕と異星人たちのやりとりに巻き込まれた地球人をグランゲイザーに連れて行ったことは何度かある。大怪我をさせてしまって治療が必要になった場合だ。でもどれも連れて行くときは意識が無かったし、もちろん記憶処理もした。
マリスの狙いが本当に僕との取引なら、陽子はこのまま地表で沢山の人に紛れていた方が安全なのかもしれない。だが、僕の知らないところで陽子に何かあったらと思うと‥‥。

「スタージャッジ」
「え?」
「部下と連絡がとりたいんだがな」
「ああ、そうだったな。いくつだ?」
ラバードの言う呼び出し先の波長に合わせてから通信機をラバードに渡した。ラバードは標準語に切り替えた。フラーメは標準語しか理解できないんだろう。

「わたしだ。‥‥ああ、無事だ。‥‥‥‥わかった。わかったから黙れ。今地表に居る。カプセルで迎えをよこせ。船で来るのはやめろ。場所は‥‥」
「今、グランゲイザーが真上にいる。それを目安にできるか? 弓状の列島の真ん中あたりのごく小さな島だ。近くに来たら300nmの誘導サインが上げられる」
「助かる。いや、こっちの話だ。スタージャッジの船の真下の小さな島にいる。近くに来たらカテゴリー5の誘導サインを目指せ。今、奴と一緒にいて‥‥。なにー!? 誰が逮捕されるか!」

くすくすと笑い声がした。起き上がった陽子が立膝に顔を埋めて笑っている。
「陽子」
「おばさん、帰るの? もう治ったの?」
「ああ、今ウミウシが迎えに来るって」
「どこへ? まさかここ?」
「山の上にするよ。まだ普通の人が歩く時間じゃない」
「あたしもお見送り一緒に行ってもいい?」

僕は思わず手を伸ばし、陽子を抱き寄せた。陽子丸い目をして僕を見上げた。
「どうしたの、マゼラン?」
「いや‥‥。‥‥かまわないよ。一緒に行こう」
ラバードを見送ったらそのまま陽子をグランゲイザーに連れて行こう。そのまま陽子の記憶を奪うことになっても、この子が傷つくことに比べたら、なんだっていうんだ。

「20クロノスかそこらで着くそうだ」
ラバードが僕に通信機を返してよこした。
「わかった。出かけよう」


空一面に広がった雲のフィルターを通して月がぼんやり見えた。僕とラバードにとっては十分でも、木々に覆われた細い山道は陽子にとっては暗すぎて、結局陽子を抱えて登った。いつもながら羽根のように軽かった。
しばらく登った場所に百m四方ほどの開けた地点があった。僕はサイン・スティックを出して300nmに会わせると上に向かってなんどか点滅させた。この波長を可視光としている種は少ないが(実際僕にも見えないが)、誘導信号としてはよく使われている。

大きめのカプセルがすぐに降りてきた。普及タイプで地球の可視光に合わせてステルス加工してあるやつだ。ハッチが開き、ラグビーボール型のフラーメ一体が飛び出してきて、ラバードにすがりついた。
「ラバード様〜!!! よくご無事で〜!」
「もう、わかったと言っとるだろーが!」

「みんなおばさんのこと心配してたのね」
陽子がにこにこしてそうコメントした。あれだけの破損を抱えて、フラーメを逃がして船に残るなんて普通はありえない。フラーメだってびっくりしただろう。ラバードが僕らに向き直った。
「世話になったな、スタージャッジ」
「こっちこそ迷惑かけた」
「気をつけろよ」
「ああ」

「ラバードサマ?」
陽子がかろうじて標準語とわかる発音をし、ラバードが笑った。
「ラバード。"サマ"は敬称だ。ラバード、でいい」
「じゃあ、ラバード、さん。ええとね‥‥」
陽子は僕を指さし、ラバードを指さし、手真似で何かを伝えようとし始めたが、すぐ諦めた。
「マゼラン、通訳して。『できたらこれからずっと、マゼランのお友達で居て下さい』」
僕は苦笑した。それは難しい注文だよ、陽子。

「なんだ? スタージャッジ? ごまかさず、小さいのの言ったとおりに言え」
「可能ならこれからずっと、僕の友達でいて欲しい、と言ってる」
また爆笑されるだろうと思ったのに、ラバードは身をかがめて陽子の手を取った。

「友達なら、お前がなれ。お前がこの男を愛しているなら。その気持ちが確信できるほどに強いものなら、こいつと共に歩む勇気を持つがいい。途が開けるかどうかはお前にかかっている」
陽子はびっくりして固まったままだ。正直言うと、僕も同じように固まってた。

ラバードが重ねて言った。
「あれこれ悩むな。考えることは、愛しているのか、いないのか、それだけだ。いいな」
ラバードは立ち上がり、くるりと背を向けるとそのままカプセルに入った。フラーメも慌ててその後を追い、黒い固まりはあっというまに空に昇っていってしまった。

僕は声もなく空を見上げていた。ラバードが最後に言った言葉が耳に残ってる。いや、それだけじゃない。今夜、彼女の言った言葉の全てが、僕の中を駆け巡っていた。

でも‥‥だからといって、何か新しい解答が出た訳じゃない。陽子に、グランゲイザーに戻る話を切り出そうとした時、僕の耳に飛行音――それも高速の――が聞こえた。

その物体は音もなく着地した。くるんと一回転すると、そいつの周りから黒いアーマーがばらけるように消えた。長身の地球人と言っても通る姿だった。

「キミが、地球のスタージャッジ?」
男が一歩踏み出した。雲が切れて、相手の顔が月明かりに浮かび上がった。顔の上部にかかっていた巻き毛を風が巻き上げ、初めて目が合った。アザラシでも思わせるような大きな瞳と秀でた大きな額が幼い子どもを連想させる。長い手足とその顔がどこかアンバランスだ。そいつは握手を求めるように手をさしのべた。
「ボクはマリス。よろしく」

それは不合理な予測だった。センサーに引っかかったわけでも、ましてや見えていたわけでも無かった。陽子に向かって一直線に走った何かの軌道に僕は割り込んだ。左背から腹部に貫通して、まだ進もうとするそれを手で掴み止めた。小さなナイフ状のものだった。

もう半回転してマリスの方に向き直って座り込む。僕の背中に身を寄せた陽子が悲鳴を上げる寸前、僕は彼女の手を握りしめた。
「大丈夫だ」

「噂は本当だったみたいだね。優しいスタージャッジ。会えてすごく嬉しいよ」

月明かりの中で、マリスはにたにたと笑っていた。
この不気味な男が英語を話していたことに、僕はその時気づいた。


|2008.06.29 Sunday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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