サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジIII〜マゼラン〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジIII 5)戦闘
「なんのマネだ!」
すぐ立ち上がってそう言った。破損はたいしたことはなかった。
「キミがその人を助けるかどうか見たかったんだ」
「なんだと?」
「怒らないでよ。ちゃんと間に合ったじゃない」
「‥‥‥何が目的だ‥‥」
「それより質問に答えてよ。キミがこの星のスタージャッジ?」
「何が目的だ、言え!!」
背後で陽子がまた怯えて竦むのがわかった。でも怒りが抑えられない。人の命をなんとも思わない犯罪者には何度か会っているけど、こんな気持ちになったのは初めてだった。

「ええと‥‥」
マリスは頭の脇で人差し指を立てて振り回した。5本指の地球人そっくりの白い手だった、少しの間ののち標準語で言った。
「あはは‥‥、やっぱまだよくわかんないや、ここのコトバ。どっかで知ってるような気がしたんだけどなぁ」
マリスは両腕を伸ばしてくるりと回ってみせた。
「さっきまで賑やかそうなトコ、ぶらぶらしてたんだ。みんなが話してたコトバ、なんか聞いたことある気がしたんだけど‥‥。もうちょっと時間あれば、覚えられるんだけどな。ボクって天才なんだよ」

「お前、ビメイダーなのか? それで地球人そっくりの姿を‥‥」
「気持ち悪い。ビメイダーなんかと一緒にしないでくれる?。ボクは自然人さ。正真正銘のね」
不愉快そうに顔をしかめたマリスが、またにいっと笑った。
「でも、キミには逢いたかったんだ。キミがどんなスタージャッジか知りたかったんだ。そのために苦労してここまで来たんだ。もっと喜んで迎えてくれてもいいのにさ」
「ふざけるな! カミオの人たちやフラーメを沢山殺したのもそのためだってのか!」
マリスがぽんと手を打ち鳴らした。
「ああ、やっぱりキミ、あの連中も助けたの? さっきのサインはその関係?」
「貴様‥‥」
「ちょっと待ってよ。ボクはこの星に何かする気はないんだ。キミの仕事には関係しないから。あの女ビメイダーの方がよっぽどキミを困らせてたんじゃない? それにあんな石ころ人間や使い捨ての作業生物、いくら殺したって‥‥」
「黙れ! みんな生きてた。生きてたんだぞ!!」

頭の中に、カミオの人たちやフラーメが殺される映像がよぎった。実データじゃない画像が浮かぶなんて、僕にとってはあり得ないことだった。でも僕は確かに見た。そしてそれが一瞬、陽子が倒れていく映像と置き換わる。僕は、僕の腕をぎゅっと掴んだままの小さな手を意識して、陽子は無事だと自分に言い聞かせなけりゃならなかった。
「キミ、本当に面白いね。ビメイダーなのに本当の"人"みたいなこと言うね。"人"みたいに感じるんだね。会うまでは半信半疑だったけど、来てみて良かった。良かったよ」

マリスの嫌みな笑顔を見ながら僕は決めていた。僕の独断でこいつを拘束する。確かにこいつは途上星侵略防止法や星間交易法に違反してるわけじゃない。スタージャッジである僕としては秩序維持省からの委任状がなきゃ逮捕できないけど、待ってられるか。あたりは明るくなり始めてるし、早朝のハイキングを始める人がいないとも限らない。

「陽子。一人でバンガローに戻れるか?」
僕はマリスの方を向いたまま小さく日本語で言った。マリスが日本語まで理解するとは思えなかった。
「う、うん。でも‥‥」
僕は陽子の手を軽く叩いた。
「大丈夫だ。あいつを捕まえたらすぐ戻る。早く行くんだ」
「はい」

陽子が向きを変えて走りだし、マリスがつられるようにそれを追った。僕の右手から飛んだワイヤーがマリスの足を絡めとる。マリスはうつぶせに倒れ込んだが、両手を地面につっぱってぽんと跳ね起き、こちらに向き直った。すかさずもう1本のワイヤーで奴の上半身を縛り上げる。
スタージャッジの使うキャプチャリング・ワイヤーは並じゃない。無理に力を加えれば身体の方が切れてしまう。さっき真上にいるグランゲイザーにシグナルを送った。フリッターがあと十分ぐらいで到着するだろう。フリッターは小型の輸送艇で、荷物や負傷者の搬送や捕獲した犯人の護送などに使ってる。"銀色タマゴ"は一人乗りだからこんな時には使えないんだ。

「ねえ、なんのつもりさ?」
縛られて棒のように直立したマリスは、相変わらず人を食った態度のまま、近寄ってくる僕を見ていた。
「マリス。お前を逮捕する」
「ボクが何をしたっていうの?」
「カミオの人を殺し、スブールの船を破壊した。そして地球人の殺人未遂だ」
マリスの身体を服の上からざっと探ってみた。右腰にでかい両刃のナイフ。ざっと調べるが純粋な金属の固まりのように見える。懐にさっき僕に穴を開けてくれたと同じ小さなナイフが3つ。

マリスはこんな時だというのに、くすぐったげに笑いながら言った。
「キミさ、こんな命令違反して大丈夫なの? ボク、正確に証言するよ? なんにもしてないのにいきなり掴まったって。あとで困らない?」
「好きにするんだな」

驚いたことに極めて原始的なナイフ以外のものが見つからない。アーマーを使ってるんだから何らかの機器は必要と思われるんだけど‥‥。でも‥‥
「身体の中にかなりの金属反応がある。お前、やっぱり‥‥」
「ビメイダーかってのかい? 冗談じゃない、謝れよ! 病気で人工のパーツをいくらか入れただけだ、ビメイダーなんかじゃない!」

こんな嫌悪感を示すということは、たぶん本当に自然人なんだろう。少なくとも脳の中身は‥‥。何も言わずに再びチェックに入ったら、一転、人なつっこい声で話しかけてきた。
「キミってもしかして、ビメイダーのくせに命令違反が好きなの? この前もそうだったんだってね」
「この前って、なんのことだ?」
知らないふりをする。フリッターが来るまで大人しくしててくれるなら、くだらないおしゃべりもいいだろう。だいたい僕はそんなに素行不良じゃない。今だってマリスを捕獲すると本部には送信済みだ。僕らは身体の端子に通信機を接続して情報を送信することができるんだ。本当は船と常時接続してればいいのだろうがエネルギー消費が激しいし、今の地球ぐらいの文明になるとゲイザーが見つかっちまう。

「ストリギーダ人を捕まえて売ろうとして地球に逃げ込んだ連中だよ。キミったら爆破命令無視して相手の船に乗り込んでって助けちゃったんだって?」
「どうしてそんなことを知ってるんだ?」
「シリウス星系の維持省本部で話題になってるって、ボクの知り合いが教えてくれたんだ。リューカー=ドゥーズって知ってる? 彼、親切なんだ。金にならないターゲットに用はないけど、もしかして興味あるんじゃないかって、わざわざ教えてくれたんだよ」
「お前‥‥リューカー=ドゥーズの仲間なのか?」
さすがにちょっと驚いた。リューカー=ドゥーズは犯罪組織ファラップの幹部として知られた名だが、秩序維持省でもはっきりした正体を掴んでない。こいつを捕まえればその手がかりが得られるかもしれない。

「仲間って訳じゃないけど時々仕事もらうから。あ、他の人から請け負うこともあるよ。僕はスタージャッジ専門の殺し屋なの。下請けだから名前は出さないけど」
「で、今回のターゲットは僕ってわけか?」
「うん」
「誰の依頼で?」
「ボク」
「理由は?」
「ふふ‥‥。あとで教えてあげる」
マリスは子どものような笑い声をたてた。

こんな物騒な目的持ってて、何が買収してやるだ。とはいえ今は喋らせておくのが一番いいのだろう。
「スブールの船を壊してからどうやって地球に入った?」
「ボクのシップも回しておいたんだよ。ちゃあんと地球に入ってるよ。スブールのシップのことでばたばたしてて、気づかなかったでしょ」
マリスはまた得意げにくっくっと笑った。
「船を持ってるなら普通に入ってくればいいだろう? カミオなんて遠距離から電送されるリスクを冒すなんて‥‥」

「そう? 電送って別に怖くないよ。ときどき体調崩すけど治せばいいんだから。そんなことよりキミのこと一番よく知ってる奴と話したかったんだよ。船で近づいて大人しく入船させてくれるわけないじゃん。いろいろ苦労したのにあの女ビメイダー、そっけないから頭来ちゃったけどさ。スタージャッジのこと調べるの大変なんだよ。だって本部以外に誰とも付き合いないだろ?」
僕の胸が少しちくりとした。マリスの言った通りだ。それがスタージャッジだ。当たり前のことだ。それを辛いなんて、考えたこともなかったのに‥‥。僕は頭を振って質問を続けた。

「なぜスタージャッジを狙う? スタージャッジを消滅させる手間を考えたら、いい商売になるとは思えないんだが」
マリスは身体を左右にゆらした。手足をぐるぐる巻きにされているのに、バランスを失うこともなく、まるで草みたいに器用に揺れている。

「仕事はおまけなんだよ。ボクはボクのために探してたんだよ、キミみたいなスタージャッジを。自由意志を持ったスタージャッジ。優しくて感情移入できる"人"みたいなスタージャッジ。ボクの望みを叶えるには、そういうスタージャッジが必要なんだ。でもいなかった。今まで何人ものスタージャッジに会ったけど、みんなコンピュータみたいに冷静だった。スタージャッジってビメイダーのなかでも特別製なんじゃないのかな。悔しがったり悲しんだりぜんぜんしないんだ。たとえ殺される寸前でもね。でもキミは違う。違うよね」

マリスが上目遣いに僕を見て、にいっと笑った。
「とうとう、見つけた」

次の瞬間、マリスの左手から何かが走った。一つが彼自身の左脚に沿って下に、そしてもう一つが左腕を遡る。それはマリスの衣類と皮膚共々にワイヤーを切り裂いた。彼の周囲に真っ黒なアーマーが現れる。その時はもう僕の身体もサポートアーマーに包まれてた。
レーザーか? それとも分解銃? こんなものを体内に仕込むなんて普通じゃない。だがリープ伝送路を電送でくぐってくる奴だ。常識なんかとうの昔にふっとんでる。

マリスの動きは速く、一直線にこちらの懐に飛び込んで来た。木の陰に回り込みながら、三回、かわした。そのたびに幹を粉砕された大きな木がばたばたと倒れた。
四回目、下から回り込むように入ってきたマリスの左肩に右手を置いた。宙返りして奴を飛び越えざま、右下腕のエッジを前方にスライドさせて、小型の剣がわりに奴の肩に思い切り突き込んだ。

だが切っ先はほとんど食い込まない。まるで棒でも突き立てたような感触が戻ってきた。
「無駄だよ。ボクのアーマー、そんなことじゃ破れない」
あざけるような声と共に脇腹に回し蹴りが入ってくる。奴の体躯からは想像できない重さ。特級品のアーマーなのは確かのようだ。それなら中身(マリス)に物理的な打撃を与える方が手っ取り早い。僕は相手の脚を掴み、その身体を思い切り大木に叩きつけた。反動で戻ってきたところに全体重を乗せて蹴り込む。奴の身体が生木を裂いて地面にめり込んだ。

再度突っ込もうとした時、背後にいきなり紡錘形の飛行物体が現出した。物体は蕾が開くようにほどけ、中から真っ黒な人型が現れる。高さは3m弱。腕が三対で脚は無い。腹部は蜂みたいに大きく膨らんでるけど顔は小さく優しそうに作ってあって‥‥。なんてこった。ジーナス星の成人女性にそっくりだ。
ロボットが三対の手を伸ばしてこちらに向かってきたので即離脱した。彼女は僕には構わずマリスのそばに寄り、マリスを助け起こした。
「ああ、フォス。ボクなら大丈夫さ。嬉しいよ。すごく嬉しいんだよ、ボクは。いい感じだ。いい感じのスタージャッジなんだ。だからあまり痛めつけるなよ」
マリスがロボットから何かの獲物を受け取って立ち上がった。忠実なる守護者といった様相の大きなロボットがふわりのその前に浮いてくる。

「IDカノン」
こっちも相棒を呼んだ。グライダー状態のカノンの中からごちゃっとした金属の固まりを取り出し、ひと振りすると一mほどの棒になる。先端は槍と鎌と斧が一緒くたになっているし、反対側は錘というには重すぎる金属球。地球人の得物を真似てごたまぜにしたからジャンブルと呼んでる。
フォスと呼ばれたロボット、もし本当にジーナス製ならかなりの性能のはずだ。ジーナスは天才揃いの星。実を言えば僕を作った博士達もジーナスの生まれだ。アーマーもジーナス製とすると厄介だぞ。

カノンに捕まるとロボットに向かって突進。二カ所の関節を持つ六本の腕が伸びてくる。彼女の「域」に飛び込むと同時に僕だけ横に逃げる。あとはカノンにやってもらおう。僕はジャンブルの刃をかざして一直線にマリスへ飛んだ。
右手に回り込んだ奴を鎌で薙ぐ。だが奴はそれをぎりぎりで避けた。なら勢いに任せて棒をくるりと回すだけだ。繰り出されたチェーンの先の金属球がマリスの背中にぶち当たった。

そのまま突っ込もうとしたが、背中のセンサーが上空に回り込んだフォスを捕らえる。向き直ろうとしたところ、何かどでかいもので横殴りに殴られた。吹っ飛ばされた先にはフォスがいて、腕がわらわらと伸びてくる。ジャンブルを伸ばして彼女の身体に突き立てようとしたが、フォスはジャンブルの先端部の根本あたりをがっちりと捕まえた。信じられない力だった。

そこにもう一度さっきの棍棒が襲ってくる。なんと太い幹! 向こうに宙に浮いたマリスが腕組みしてこちらを見ている。倒れた木に受信機と反重力駆動機を打ち込んで即席の"ラジコン"棍棒にしたってのか? 僕はジャンブルをしなわせてぐっと沈んだ。
「スライサー!」
木の幹が僕のいた空間を薙いだ直後、僕はジャンブルの弾性も利用してぽんと飛び上がり、同時にスライサーをフォスに突っ込ませた。スライサーに対して身構えたフォスは幸いにジャンブルから手を放し、僕はスライサーと共に上空に逃れた。


|2008.10.26 Sunday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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