サザンピーチΣ
サザンピーチΣ  あの南田操の新作小説をはじめ、新鋭精鋭の小説やエッセイ 
<富澤南桃堂(とみさわなんとうどう)発のWebマガジン>
『スタージャッジIII〜マゼラン〜』 原案・長谷川裕一 /小説・富澤かおる
スタージャッジIII 6)友達
僕は荒く息をついた。身体中フル稼働で廃熱がおっつかない感じだ。そんなときアーマーに仕込んだ通信機に信号が入り、緊張した声が聞こえてきた。
〈マゼラン‥‥。マゼラン、聞こえる?〉
「陽子、どうした?」
〈人が‥‥お巡りさんと公園の管理の人がそっちへ行っちゃったの!〉
「なんだって?」
〈大きな音がしてるから、キャンプしてた人に避難命令が出て港にいけって。バンガローに回ってきた二人が、様子見に行くってそのまま登って行っちゃったの!〉

「なに休んでんのさ?」
マリスが大型のソードを掲げて突っ込んでくる。こっちもジャンブルを突き出した。マリスはそれを巧みに避ける。ジャンブルをぐいっと引いたら、鎌の部分が奴のアーマーに食い込んだ。そのまま押しやったが、マリスは刺さった部分を中心に回転して、僕の懐まで飛び込んできた。
僕はジャンブルを手放し(カノンがキャッチしてくれた)、奴の物騒な両手を掴んで引き上げた。奴のゴーグルがちょうど僕の目の前に来る。こんな状況で奴はやっぱり笑っていた。

「キミ、すごいね。こんな平和な星のスタージャッジと思えない戦闘力だよ」
「そうかい。余計な怪我したくなかったら、あいつを止めるんだな」
僕はフォスをあごで示す。だが奴は気にした風もない。
「キミを絶対逃がさないからね」
「どっちがだ!!」
僕は奴の手首をぐっと握りしめたまま、身体を丸めて奴の両の肩口を蹴り飛ばした。腕の二本や三本もいだって命に別状無い。さっさと片付けないと。だが奴の右手のアーマーすぽりと抜け、僕の蹴りはかわされた。一度身体を開いたマリスが僕に向き直った時、生身の奴の右手が黒い銃を握っていた。

手を放したが遅い。弾丸が左膝の関節部から僕の内部に入った。離脱しながら僕は知らないうちに喚き声をあげてた。弾が内部で破裂したとかじゃない。どう考えても破損はたいしたことないはずだ。だけど脚の中の物が"痛み"‥‥つまり危険信号をまき散らしてる。

「痛い? 痛いよね? ボクが作らせた"銀の鏃"だよ。スタージャッジの神経信号にうまく合わせたんだ。ね、うまくできてるだろう?」
マリスが得意げに笑う。ロボットじゃない僕には神経信号を部分的に遮断するなんて器用なまねはできない。こんな攻撃を受けるなんて考えてもない。信号だ。これは信号だけだ。物理的には大丈夫なんだといくら言い聞かせても、センサーの全てが苦痛だけに集中しそうだった。

〈マゼラン! マゼラン!! 大丈夫なの!? マゼラン!〉
聞こえてくる陽子の悲鳴にはっとした。なんてこった。陽子の髪飾りとの回線を開けたままだ。僕は叫びを呑み込み、必死で息を整えた。
「だい、じょぶだ‥‥。‥‥切るぞ」
陽子の声がまだ聞こえていたが僕は回線を切った。今はまともに喋るのが難しい。

「あらあら。お客さんが来ちゃったよ」
マリスの声で聞こえてきた日本語に気づいた。陽子が言ってた警備員と警察官だ。僕らを見上げて驚きの声を上げている。
「さて、仕方のない犠牲ってやつがまた出ちゃうのかな、ねえ、フォス」
「あ、ID‥‥」
呼ぼうとして気づいた。カノンの反応がない。マリスの隣に浮き上がってきたフォスの手にカノンの白い翼が握られていた。

「に、逃げろ! はやく、降りるんだ!」
僕は日本語で叫びながら彼らの方に向かった。だがマリスが僕を追い越し、彼らの退路を断った。
「な、何者だ!」
二人は立ちすくんだ。それでも警官の方は銃を構えてそう怒鳴った。

「うーん、わかんないな。島だからってこんなに違うコトバ使わなくてもいいのにさ」
マリスは首をかしげながらも二人に一歩近づく。僕はその前に立ちふさがり、背中越しに二人を見やって言った。
「隙を見て逃げるんだ! こいつ、あなた達を殺すこと、なんとも思ってない!」
「あ、あんた、日本人なのか? その格好は‥‥」
「国家機密だ。さっさと山を降りて忘れなさい! みんなを避難させて!」

「やだなぁ、ボクのわかんない言葉でしゃべっちゃって。フォス。花火でも撒いちゃいなよ」
マリスがいらいらした口調でそう言い、上空のフォスが六本の腕を広げた。空中にきらきらする破片が振り撒かれる。一瞬ふわっと漂ってから急降下してきた。対生体用静電気爆弾。生身で喰らったらたまったもんじゃない。
「これかぶって伏せて!」
僕は自分のマントを外して彼らにかぶせた。多少重いが相当の防御機能を有してる。すぐにアーマー全身にバチンと言う衝撃を喰らった。大量の電荷片が僕の身体との間に放電を起こした結果だ。そのままマリスに飛びかかり、がむしゃらに奴の身体を地面に押さえつけた。
「二人とも、早く!」
地球人達がマントの下から這い出して森の中に逃げ込んだ。
マリスは僕を蹴り飛ばして飛び上がる。
「フォス。さっきの奴ら、森ごと焼いちまえ」

フォスが腕を広げた。彼女の胴体から大量の熱線が吐き出された。それが彼岸花みたいな軌跡を描いて彼らの逃げた道にもぐりこもうとしてる。僕はその先にディスクを投げた。
「クラッド・シールド!」
マントも含め分解されたアーマーの原子たちが僕の身体から離れ、コアディスクを中心に巨大な気体の盾を作った。緩やかに湾曲したシールドは押し寄せる熱をしっかりと受け止める。ディスクにコマンドを送り、エネルギーを内包したシールドごとフォスにぶつけた。いくつか爆発が起き、巨体が揺らいだ。
「フォス!」
マリスが初めて真剣な声で叫んだ。ぎゅん、とロボットに飛び寄る。だが煙が晴れればなんてことはない。慈愛に満ちた表情の女形ロボットは腕の先を三本失っただけで、しっかりと宙に立っていた。ひきかえこっちはエネルギーが残り少ない。再度アーマーを実体化させても一分は着てられないだろう。

「まさかここまでするとは思わなかったよ」
マリスがまた地表に降り立った。彼の黒いアーマーがふわりと消え、素顔のままこっちに近寄ってくる。
「こんなことであんなにエネルギーを使っちゃうなんて、バカだよ。足、痛くないの?」
「痛いさ。忘れてたんだから、思い出させないでくれ」
マリスはくすくす笑った。
「キミって最高だよ」

「マリス。お前さっき、僕がターゲットだって言ったな」
「うん」
「僕を殺せば、それで、それだけで、済むんだな?」
「済まないかも」
「なに?」
「ボクはね、スタージャッジが憎いんだよ。スタージャッジさえいなければボクは‥‥ママともパパともお姉ちゃん(キャシィ)とも別れなくて済んだ。だから‥‥」
マリスのにやにや笑いが消えた。僕を見る目はひたすらに青白く、どこか氷のようだった。

「キミが、自分がスタージャッジに生まれたことを後悔して、苦しみ抜いて死んでく。そのためだったらボクはなんだってやる。この島を沈めて見せようか。原住民、結構いるよね? そいつら、キミのために死ぬんだよ。カミオの連中もあの船も、キミのために死んだんだ。ボクのせいじゃない。キミのせいだ」

「馬鹿なこと言わないで! マゼランは悪くないわ!」
僕はその声に反射的に動いた。殆ど一飛びで、森の入り口にいた陽子を腕の中に抱いていた。なぜ陽子がここにいるのかなど、考えもしなかった。

マリスが向き直った。驚きで丸くなった瞳が、すっと細くなった。
「お姉ちゃん。ボクの言葉がわかるんだね? キミは、そのスタージャッジの、何?」
僕が制止するより早く、陽子が言い放った。
「友達よ!」


|2008.10.26 Sunday by 富澤かおる| comments(0) | 戻る |
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